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 2020年7月から国内グループ社員を対象にテレワークを基本にした富士通のように、新型コロナウイルス感染対策を機にオンライン会議の活用などテレワークの常態化が進む。一方で、オンラインではコミュニケーションがとりにくい、「雑談」から新しい発想が生まれにくいといった課題も顕在化してきた。そこで、リアルオフィスとオンラインの「中間地点」として、企業が熱い視線を送るのが、アバター(分身)ロボットがいるオフィスだ。

分身ロボットで「出社」する

 「この半年ほど、COO(最高執行責任者)は出社していません」と、オリィ研究所(東京・港)代表取締役CEO(最高経営責任者)の吉藤健太朗氏は言う。共同創設者・COOの結城明姫氏は過去に結核に罹患(りかん)し回復したものの、新型コロナ感染リスク回避のため在宅勤務を続けている。結城氏の代わりにオフィスにいるのが、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」。オリィ研究所が開発した、高さ23センチメートル、重さ660グラムとデスクに置ける小型ロボットで、カメラ、マイク、スピーカーが埋め込まれており、パソコンやスマートフォンの専用アプリなどを使って遠隔地から操作する。

 オリィ研究所では、コロナ以前から難病などで外出困難な人がスタッフとしてOriHimeで「出社」してきた。吉藤氏の秘書を務める三好史子氏は島根県在住。東京都港区にあるオフィスに来たことはないが、週1~2回ほどOriHimeで「出社」している。以前からスタッフ全体の出社率は8割程度だったが、新型コロナ対策で約3割まで減った。

吉藤氏(右)と、OriHimeで取材に同席する三好氏(左)。オンライン会議と比べて、分身ロボットと会話をするほうが違和感やストレスがなくスムーズにコミュニケーションがとれた
吉藤氏(右)と、OriHimeで取材に同席する三好氏(左)。オンライン会議と比べて、分身ロボットと会話をするほうが違和感やストレスがなくスムーズにコミュニケーションがとれた
(出所:日経クロステック)
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 「リアルの場での会議でも、そこに来られない人が分身ロボットを使うことで、存在感や一体感を得ることができる」と吉藤氏は言う。要件を伝えるだけのコミュニケーションであればオンライン会議でも問題はないが、チームとしての一体感を得たり、雑談から新しいアイデアに広がっていったりするといったことは、オンライン会議だけでは難しい。そうした対面の会議ならではのメリットを、分身ロボットを使うことで、得られるのだという。

 こうしたテレワークとリアルオフィスを組み合わせた働き方をこれまでも進めてきたオリィ研究所に対し、新しい働き方を模索する企業が注目している。

 オリィ研究所は2020年7月7日、外出困難だが分身ロボットを使って働きたい人と、雇用したい企業をマッチングするプロジェクト「AVATAR GUILD(アバターギルド)」を開始した。応募企業に合わせて、外出困難な人が分身ロボットで働くことができるよう、同研究所が支援する。これまでもNTTが分身ロボットを採用し、受付業務を担当するなど企業での導入事例があるが、そうした取り組みをより拡大していく予定だ。

 評判は上々。「いま企業は、非対面を含めた新しい働き方を考えないといけないという状況。私たちには分身ロボットを使い非対面で働くことの知見があるので、コンサルテーションに入ってほしいという要望もある」(吉藤氏)という。

モスフードサービスは、店舗のレジでOriHimeが注文を受け付ける「ゆっくりレジ」を2020年7月27日から8月下旬までモスバーガー大崎店に設置している。OriHimeを遠隔地から操作するのは、外出困難な難病患者のスタッフだ
モスフードサービスは、店舗のレジでOriHimeが注文を受け付ける「ゆっくりレジ」を2020年7月27日から8月下旬までモスバーガー大崎店に設置している。OriHimeを遠隔地から操作するのは、外出困難な難病患者のスタッフだ
(出所:日経クロステック)
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