少子高齢化や労働力不足の対策として期待されてきたものの、これまでなかなか進んでこなかったエッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)の仕事を助けるロボットの活用。新型コロナウイルス感染症対策という新たなニーズが加わり、導入が加速しそうだ。
「問い合わせ件数が3~4倍になった」。警備や清掃、点検を行う遠隔操作ロボット「ugo(ユーゴー)」を開発するMira Robotics(川崎市)代表取締役CEOの松井健氏は言う。「新型コロナウイルス感染症対策として使いたい」といった問い合わせが2020年3~4月に急増した。
特に問い合わせが多いのが、交通系や商業施設の保守・メンテナンスを担うインフラサービスでの導入だ。「非接触で感染症対策になる点、自動化できるという点で導入したいというニーズが高まっている」(松井氏)
ロボットの警備立哨はすでに実用レベル
2018年に創業した同社ではもともと、少子高齢化社会の労働力不足を見越して、ロボット開発を進めてきた。ugoは最大で高さ165センチメートル。車輪で移動する。人が遠隔地からパソコンの画面とゲーム用コントローラーを使って操作する他に、あらかじめ進路を指定しておけば自動走行も可能。アームとハンドがついているため、エレベーターの乗降やモノを持つといった、簡単な作業を行える。
同社は2020年2月にビルメンテナンスを手掛ける大成と提携し、ビルの警備の実証実験をしてきた。7月末からは、大成が警備業務を担う東京都港区の複合ビル、品川シーズンテラスで3台のugoを使い、警備員に代わって立哨や巡回をする検証を開始した。
品川シーズンテラスの警備では通常、テナントやオフィスの出入り口がある2階と3階で午前7時から午後9時まで警備員が立哨し、テナントやオフィスフロアを巡回する。警備員1人当たりの勤務時間の4~5割はこうした立哨と巡回の業務が占めている。
一方、ugoを使った立哨や巡回では、警備員が警備室内に置いたパソコンの画面でugoのカメラに映った様子を確認する。遠隔操作でugoの周りにいる人に声をかけたり、ugoのハンドを操作してエレベーターのボタンを押して階を移動したりすることもできる。
これまでの実証で、「立哨警備はすでにugoに任せることができる」(大成の品川シーズンテラス現業所隊長を務める飯倉翔太氏)と言い、2020年秋からは実際に警備員のシフトの中にugoを入れていく予定だ。
「投資家からの注目も高まっている」
もともと労働力不足や効率化などから検討されていたロボット活用だが、新型コロナ対策として切羽詰まったニーズが高まった。
人が多い空間にいる警備員の仕事は、感染リスクが高い。仮に警備員が感染した際には、ビルの消毒やテナントへの説明といった負担が増える。こうした理由で、警備員の感染リスク低減にもつながるロボット活用に期待が集まるのだ。松井氏は「投資家からの注目も高まっている」と感じている。
Mira Roboticsは、具体的な金額は未定だが、月額10万~20万円程度で2020年秋からロボットを貸し出し運用するサービスを開始予定。現状で実証実験向けのロボットは10台だが、ロボット量産化のための資金調達を今後実施予定で、2021年夏には数百台の量産化にこぎ着ける計画だ。