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いよいよジャイアントパンダの引っ越しが目前に迫った東京・上野動物園の新パンダ舎。連載4回目は、コロナ禍で中国の専門家が来日できないなど、ハプニングに見舞われながらも完成を迎えた経緯や、新パンダ舎建設の背景を解説する。

 東京都と上野動物園の指定管理者である公益財団法人東京動物園協会は2020年8月7日、新パンダ舎やレッサーパンダ舎、中国のキジ類を展示する鳥舎などがある一帯を9月8日にオープンすると発表した。まずは、現パンダ舎から新パンダ舎に雄のリーリー(力力)と雌のシンシン(真真)を移して慣れさせる計画だ。

 なお、リーリーとシンシンの子で2017年に上野動物園で生まれた雌のシャンシャン(香香)は、夏休み期間中の観覧客を迎えるため、当面は現パンダ舎で公開を続ける。

 現パンダ舎で親子3頭を公開する最後の日となった2020年8月16日、筆者が上野動物園へ行くと、名残惜しそうに現パンダ舎を撮影する人たちの姿が見えた。翌日は休園日で、翌々日の8月18日はシャンシャンだけを公開する初めての日。整理券を予約して開園10分後にパンダ舎に入ると、屋内の手前の2室はシャッターが下りて、その隣室にシャンシャンがいた。リーリーとシンシンは、シャッターが下りた部屋にいたようだ。

 上野動物園によると、リーリーとシンシンは8月23日時点でまだ現パンダ舎にいる。新パンダ舎へ引っ越す際は「ケージに入れて、空調を管理した車両で運ぶ」(上野動物園教育普及課)。それでも2頭が屋外に出る時間は生じてしまう。パンダは暑さが苦手だ。そのため、気温などを考慮して引っ越す日時を決める。

新パンダ舎の中央に設けた「屋外放飼場」。ガラス越しでなく、パンダを直接、観覧できる。暑さが苦手なパンダが日陰で休めるように、洞窟のような「ほこら」もしつらえた(写真:東京都)
新パンダ舎の中央に設けた「屋外放飼場」。ガラス越しでなく、パンダを直接、観覧できる。暑さが苦手なパンダが日陰で休めるように、洞窟のような「ほこら」もしつらえた(写真:東京都)
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新パンダ舎は上野動物園の西園内にできる。現パンダ舎は東園の表門そばにある。東京都の資料に日経クロステックが加筆
新パンダ舎は上野動物園の西園内にできる。現パンダ舎は東園の表門そばにある。東京都の資料に日経クロステックが加筆
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新型コロナウイルス対策で、現在は予約制の入場制限を実施している上野動物園。ジャイアントパンダは撮影禁止。表門は建て替え中のため、仮設の表門から入る。2020年8月18日に撮影(写真:中川 美帆)
新型コロナウイルス対策で、現在は予約制の入場制限を実施している上野動物園。ジャイアントパンダは撮影禁止。表門は建て替え中のため、仮設の表門から入る。2020年8月18日に撮影(写真:中川 美帆)
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 新パンダ舎の一帯は中国四川省のパンダのふるさとを再現した約6800m2のエリアで、「パンダのもり」と名付けた。パンダが生き生きと暮らせるように再現した広い「森」と、希少動物であるパンダを保護する「守」という2つの意味を込めた。工事期間中は「パンダのふるさとゾーン(仮称)」と呼ばれていた。

 基本設計と実施設計は翔設計(東京・渋谷)が手掛けた。工事は建築や電気設備、給排水衛生設備などに分けて、都がそれぞれ発注した。

 主な工事の落札者と落札額は以下の通りだ。

工事件名は「上野動物園パンダのふるさとゾーン」を省略して記載。金額は税抜き。工期は落札者決定時点の日程で、実際と異なる場合がある。東京都の資料を基に筆者が作成
工事件名は「上野動物園パンダのふるさとゾーン」を省略して記載。金額は税抜き。工期は落札者決定時点の日程で、実際と異なる場合がある。東京都の資料を基に筆者が作成
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施工中は下請けの専門工事会社を含め、工事に携わる建設会社の看板がずらりと掲げられていた。2019年11月に撮影(写真:中川 美帆)
施工中は下請けの専門工事会社を含め、工事に携わる建設会社の看板がずらりと掲げられていた。2019年11月に撮影(写真:中川 美帆)
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 新パンダ舎などの工事は、約22億円(税込み、設計費なども含む)を投じて2018年に始まった。しかし、順調に進んだわけではない。当初予定していた工期末は、東京五輪が開幕する前の2020年3月ごろ。だが、工事は遅れ、上野動物園が新型コロナウイルスの感染拡大防止のために臨時休園した2020年2月29日から6月22日の間も作業は続いた。

 工事が遅れた理由の1つは、新パンダ舎の建築工事で1回目の入札が成立せずにやり直しとなり、着工が遅れたため。さらに着工後、現地を掘削すると、水道や電気などの埋設物が予想以上にあることが判明。これらの移設に時間を要した。

 新パンダ舎は台東区道の「動物園通り」に面している。ここから施工中の様子が見えるので、筆者は7カ月以上にわたり、毎週欠かさず見に行った。動物園通りを行き交う近隣の住民も、工事現場をのぞきながら「いつパンダさんが来るのかな」と気にしていた。

新パンダ舎の完成予想図を眺める人々(写真:中川 美帆)
新パンダ舎の完成予想図を眺める人々(写真:中川 美帆)
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 主な工事は2020年6月末までに終わり、7月には最後の手直しに入った。しかし、完成を目前に大きな壁が立ちはだかった。

 都は中国・北京に本部がある中国野生動物保護協会(CWCA)と共同でパンダの繁殖研究プロジェクトを進めるため、中国ジャイアントパンダ保護研究センター(中国大熊猫保護研究中心、CCRCGP)からパンダを受け入れている。都がパンダ舎を建設した場合、CWCAやCCRCGPの専門家が検査する決まりだ。2011年に上野動物園の現パンダ舎を改修した際も、中国から専門家が来日して検査を実施した。だが今回は、コロナ禍で中国からの来日が難しいため、検査できない恐れが浮上したのだ。