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体内に取り入れる水や食事に気を配る人は多い。だが前真之・東京大学准教授は、目には見えない「室内空気質」にもこれまで以上に意識を向けるべきだと指摘する。新型コロナウイルス問題をきっかけに、住環境が健康にもたらす悪影響の深刻さも広く知られるようになった。空気質に関する基本をおさえておこう。

(イラスト:ナカニシミエ)
(イラスト:ナカニシミエ)

 健康のためにと、食べ物や飲み水の質を気にする人は非常に多い。体の中に取り込むのだからなるべく良いものを、と考えるのは当然だが、大きな忘れ物をしてはいないだろうか。

 図1で示すように、体が最も多く取り入れているのは「空気」。食べ物や水は体に蓄えておけるので、良いものだけを選んで取り入れることが可能だ。しかし、空気はどんな環境下でも常に取り入れ続けなければならない。滞在した全ての周辺環境の有害物が、気管や肺にいつまでも蓄積されてしまうのだ。

[図1]体に取り込む最大の物質は「空気」
[図1]体に取り込む最大の物質は「空気」
健康のために飲み水や食べ物の質を気にする人は多いが、いずれも摂取量としては1kg程度と少ない。空気は膨大な量を1日中吸い続けなくてはならないため、はるかに健康リスクが大きいのだ(資料:前 真之)
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死因で急増する「肺がん」と「肺炎」

 日本における死因の最上位である「がん」の種類をみてみると、胃がんや肝臓がんが減少し、最近では肺がんが急増していることが分かる[図2]。気管を含め、呼吸器系の疾患が最大の生命リスクとなっているのである。

[図2]がんの中でも特に「肺がん」が急増中!
[図2]がんの中でも特に「肺がん」が急増中!
従来、最大の死因であった胃がんはピロリ菌除去の普及などで減少。肝臓がんも肝炎ウイルスの治療で減り始めている。入れ替わるように急増している死因が、気管・肺のがんだ(資料:厚生労働省の資料を基に筆者が分析)
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 肺がんの最大の要因が喫煙であることは明白だが、図3で示すように「大気汚染」が取り上げられているのは要注意である。

[図3]肺がんの原因は「喫煙」だけでなく「大気汚染」も
[図3]肺がんの原因は「喫煙」だけでなく「大気汚染」も
肺がんの発生要因として、「喫煙」意外に「大気汚染」も挙げられている。特にPM2.5による汚染が、発がんリスクを高めることも明記されているのだ(資料:国立がん研究センターの公開情報を抜粋)