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 「もしも荒川が氾濫したら、当社1社の顧客だけで数十万件の被害が出る可能性がある」。三井住友海上火災保険の丸山倫弘損害サポート業務部企画チーム課長はこう危機感をあらわにする。

 荒川は埼玉県および東京都を流れる河川だ。三井住友海上によれば、2011年に発生し甚大な被害をもたらした東日本大震災の際、「10万件を超える顧客対応を実施した」(丸山課長)。荒川が氾濫した場合はその数倍の被害件数に上る可能性がある。

東京都江戸川区などが掲載している「江東5区大規模水害ハザードマップ」。荒川や江戸川が氾濫した場合の浸水想定区域図を重ね合わせた
東京都江戸川区などが掲載している「江東5区大規模水害ハザードマップ」。荒川や江戸川が氾濫した場合の浸水想定区域図を重ね合わせた
(出所:江戸川区)
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 荒川氾濫といった大規模災害に備えるため、三井住友海上は損保会社の本丸とも言える「損害査定」にAI(人工知能)を活用すると決断した。これまでは地震や水災発生時の損害査定は人による立ち会い調査が原則だったが、「荒川が氾濫した場合、社員総出で現地に向かってもとても数が足りない」(丸山課長)。

3次元地表モデルで流体シミュレーション

 甚大な被害が発生した際に、少しでも早く顧客に保険金を支払える体制を作るために、三井住友海上が導入するのがドローンとAIによる損害査定システムだ。浸水地域にドローンを飛ばして上空から画像を撮影し、地表の3次元モデルを作成した上で、AIや流体シミュレーションにより被災地域における顧客の家の浸水高を推定する。

ドローンから撮影した画像を基に作成した地表の3次元モデルのイメージ
ドローンから撮影した画像を基に作成した地表の3次元モデルのイメージ
(出所:三井住友海上火災保険)
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 人による立ち会い調査を一軒一軒実施せずとも、建物の浸水被害状況を把握できるようにする。例えばこれまで事故の連絡から保険金支払いまで約1カ月かかってしまっていた顧客の場合、最短5日程度で支払えるようになると見込む。

 三井住友海上がパートナーに選んだのは、東大発数学ベンチャーのアリスマー(東京・港)だ。アリスマーのAIや流体シミュレーション技術を活用する。地表の3次元モデルの作成については、ドローンの撮影を手がけるセキド(東京都国立市)や地図情報の調査・制作や測量に強みのあるゼンリンと連携する。

 三井住友海上が人工衛星ではなくドローンから撮影した画像を分析に使うと決めたのは、顧客の家一軒一軒に対し、どの程度浸水したかを把握する「ミクロな情報」が欲しかったためだという。

 2019年6月にドローンとAIを使った損害査定システムの実証をしたところ、被害が最大で5〜6メートルもの高さになるという浸水高の推定について、誤差平均が30センチ程度の幅に収まった。「実装に耐えうる」と判断し、2019年12月末に同システムによる損害調査を2020年に始めると発表した。