「キャッシュレス決済の比率はあまり変わらなかったですね」。福井県でうなぎ屋「玄白」を経営する村井三雄氏は2020年6月30日で終了した「キャッシュレス・消費者還元事業(以下、還元事業)」について、こう感想を述べる。
玄白では以前からクレジットカードを利用できたが、還元事業に合わせてQRコード決済などのスマートフォン決済も導入した。だが、同事業の前後を比較して、キャッシュレス決済の比率は大差なかったという。うなぎの単価が高く、元からクレジットカードを利用する顧客が多かった事情もあったようだ。
還元事業は、政府がキャッシュレス決済額の5%または2%を消費者に還元する取り組みを指す。キャッシュレス決済の普及に加えて、2019年10月に実施した消費増税の影響緩和を目的として、2019年10月1日に開始。9カ月後の2020年6月30日に終了した。
2020年6月29日から30日にかけて、政府閣僚からは還元事業の効果を強調する声が相次いだ。「ポイント還元はそれなりの効果があった」(麻生太郎財務大臣)、「ポイント還元事業は一定の成果を上げた」(菅義偉官房長官)、「ポイント還元事業の一定の成果を上げた」(梶山弘志経済産業大臣)といったものだ。一方で冒頭で見たように、現場からは還元事業の効果を疑問視する意見も出ている。実際のところ、この事業がキャッシュレス決済の普及に与えた効果はどうだったのか。
中小・小規模事業者の半数超が参加
還元事業の効果を見ていく際に、一つの目安となるのが「どれだけの店舗が参加したか」だ。
経済産業省によると、還元事業に参加した店舗(登録加盟店)の数は約115万店に達した。経済産業省 商務・サービスグループの西川奈緒キャッシュレス推進室長は、「還元事業の対象となる中小・小規模事業者約200万店の半数超が参加したことになる」と説明する。
キャッシュレス決済が普及するためには当然、サービスが利用できる店舗の増加が欠かせない。利用できる場所を増やしたという点で、還元事業の効果はあったとみなせる。
還元事業では、中小・小規模事業者に対して決済端末の費用を全額負担し、決済事業者に支払う手数料についても3分の1を国が補助するという支援策を講じていた。これらが受け入れられたことも一因とみられる。