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 SUBARU(スバル)が2020年10月発売の新型ステーションワゴン「レヴォーグ」から導入を始める「新世代アイサイト」(図1)。ステレオカメラを中心とするセンサー群やデータ処理用の半導体に注目が集まるが、実は先進運転支援システム(ADAS)の性能を引き出すため機械部品にも手を入れている。

 具体的には、スバルとしては初めて電動ブレーキブースターを採用した。エンジン車では必須でない高コストな部品をなぜ採用したのか。新型レヴォーグから、自動運転車が抱える課題が透けて見えてきた。

図1 スバルの新型ステーションワゴン「レヴォーグ」
図1 スバルの新型ステーションワゴン「レヴォーグ」
前方監視用のセンサーとして、新開発したステレオカメラを搭載する。前側方の監視用として、前部バンパーの左右に77GHz帯ミリ波レーダーを内蔵した。(出所:スバル)
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 「これまでのブレーキシステムには、反応速度や制動力の点で限界があった。新世代アイサイトの性能を十分に高めるためには、電動ブレーキブースターの採用は欠かせなかった」。ADASや自動運転車の課題を分析するのは、新型レヴォーグでブレーキ開発を担当したスバルシャシー設計部主査の佐藤司氏である。

トヨタやホンダも交差点対応

 新世代アイサイトの開発でスバルが注力したのが、交差点での衝突など事故を回避できるシチュエーションを増やすことだ。車両や歩行者との衝突を回避するためには、(1)衝突の危険性がある物体を素早く認識し、(2)適切な制動力でブレーキをかける――という2つのステップが必要になる。

 直線路での衝突を回避することを目的としてきた従来の緊急自動ブレーキと比べて、交差点のような見通しの悪い状況への対応は格段に難しい。スバルは“ステップ1”への対応として、ステレオカメラを刷新して認識範囲を広げつつ処理能力を高めた。これで、死角から急に飛び出してくる車両や歩行者を瞬時に把握しやすくした。

 ステップ1への対応は、トヨタ自動車やホンダなど他の自動車メーカーも実施している(図2)。種類や組み合わせはメーカーごとに異なるが、センサーを改良して自動ブレーキを交差点の右左折に対応させている。

図2 トヨタの小型SUV(多目的スポーツ車)「ヤリスクロス」(右)
図2 トヨタの小型SUV(多目的スポーツ車)「ヤリスクロス」(右)
同一のプラットフォームを採用する小型車「ヤリス」(左)と共に、交差点の右左折時の自動ブレーキに対応した。前方監視用のセンサーは単眼カメラとミリ波レーダー。(出所:トヨタ自動車)
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他社に先駆けてブレーキを変更

 スバルの独自性は、一足早く“ステップ2”に取り組みを進めたこと。「安全」の領域で他社を圧倒したいスバルは、コストの増加を覚悟の上で反応応答性や制動力が高いブレーキシステムの採用に踏み切った。

 従来のアイサイトでは、緊急自動ブレーキの制動力はESC(横滑り防止装置)から発生させていた。直線路での自動ブレーキ機能では必要十分な制動力を発揮するが、「交差点事故を回避するための応答時間や制動距離を実現するのは困難だった」(佐藤氏)という。

 新世代アイサイトのために採用を決めた電動ブレーキブースターは、内蔵するモーターでブレーキのマスターシリンダーを押し、油圧を制御するもの。電動ブレーキブースターは電動車では多く使われている。電気自動車(EV)は負圧を発生させるエンジンがなく、ハイブリッド車(HEV)では低回転時にエンジンを止めるため負圧を確保できないためだ。