全2024文字
PR

 社員が自らのキャリアを主体的に決めて意欲的に働ける仕組みをつくり、データ活用を通じて生産性を高め、イノベーションをリードしていく――。こうした考えに基づき、人事改革に挑む企業が今増えている。ジョブ型人事の導入に挑む企業に迫る特集の第4回は三菱ケミカルを取り上げる。

三菱ケミカルは人事部門でのデータ活用を進める
三菱ケミカルは人事部門でのデータ活用を進める

 同社は2020年10月に「ジョブ型」の人事制度を刷新した。対象は全管理職約5000人だ。それぞれが担う職務内容を一段と明確にしたうえで、社内異動に公募制を採用。人材配置の透明性をさらに高め、主体的なキャリア形成を促し、多様な人材の活躍につなげる。

 ジョブ型は仕事の内容を細かく決めて達成度合いを見る人事制度だ。職務別に仕事の内容と必要なスキルなどを定義し、職務に見合うスキルを持つ社員をアサインする。新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークなど場所にとらわれない働き方が広がり、ジョブ型の人事制度に注目が集まっている。

 だが三菱ケミカルは事情が異なる。同社が職務に基づく処遇体系を導入したのは今から3年前の2017年だ。三菱化学と三菱樹脂、三菱レイヨンの3社が統合したタイミングである。

 「狙いは変化への対応にあった」。人事を担当する中田るみ子取締役常務執行役員はこう説明する。グローバル化に伴い事業面での競争が激しくなり、イノベーションをけん引できる人材のニーズが高まった。イノベーションを主導する人材は自身のキャリアを主体的に決めるべきだと考えた。

全管理職の職務記述書を作成

 ジョブ型制度の導入によってそれなりの成果を得られた一方、課題も浮き彫りになった。現場の部長などが部下の登用を考える際に、年功序列の概念を完全に取り払うことができなかったという。会社としては年齢や経験ではなく、職務に応じた実力を備えているかによって人材の配置を決める考えだった。だが、実際の運用が難しかった。

 ジョブ型の人事制度では「職務記述書(ジョブディスクリプション)」によって職務ごとの仕事内容を明確にするのが一般的だ。三菱ケミカルの場合、職務記述書を用意していたのは一部の職務だった。日々の仕事をこなすうえでは問題なかったが、「ある職務についてそこに見合う人は誰か」を考える際、職務内容が明確でないと、やはり配置や登用がどうしても属人的になりがちだったという。