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 製造業のR&D DXを捉えるとき、第1回でも触れたように、そもそも最終製品において、ソフトウエアへの付加価値の移動が起きている状況も踏まえる必要がある。これはハードウエアの付加価値が下がったというよりは、ソフトウエアの発展により新たな付加価値が創造された結果、付加価値において相対的にソフトウエアの占める割合が高まっていると言える。

 そこで、その付加価値を支えるために大規模なソフトウエアの開発が求められている。

 これらの事象は、(1)ソフトウエアレイヤーへの付加価値移転と付加価値の提供主体となることをもくろむビジネスレイヤーでの動向、(2)大規模ソフトウエア開発への対応、の2点に大きく分類できる。今回は、主に(1)について論じる。

携帯電話で起きた付加価値の変化

 付加価値のソフトウエアへの移行とそれに伴うビジネスレイヤーの変化については、1990年代後半~2010年ごろに携帯電話の世界で起こったゲームチェンジが先進的かつ代表的な例といえる(図1)。

図1 携帯電話におけるゲームチェンジ
図1 携帯電話におけるゲームチェンジ
(出所:アーサー・ディ・リトル・ジャパン)
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 かつての携帯電話は通話機能と通信モデム(データを通信網に乗せるための変換)機能が中心となっており、で、その付加価値はハードウエア(≒きょう体+通信信号処理機能)に存在していた。

 その後、NTTドコモの「iモード」により、携帯電話が情報端末化した。iモードはユーザーに強く支持され、携帯電話を情報端末たらしめるソフトウエア階層の付加価値が高まった。しかし、携帯電話のハードウエアを開発し、商品として販売するビジネス形態は続いており、それがハード開発に従属する形となるソフトウエア、特にOS・ミドルウエアの開発ボリュームの爆発的な増大を招いてしまった。一部では半導体レベルでのプラットフォーム統合なども行われていたが、ソフトウエア開発ボリュームの急激な増大には焼け石に水であったといわれる。

 情報端末としての携帯電話を支持するユーザーからは、フルブラウザーやPC同様のネットアクセス性を求めるニーズが存在することは明らかとなりつつあったが、それに対応するだけの工数を捻出できない状況が続いていた。

 こうした中、米Apple(アップル)は統一ハードウエアとソフトウエアで一元的に価値提供する垂直統合モデルをとなる「iPhone」を発表。全画面液晶とフルブラウザーによる情報端末としての高い完成度に加え、サービス階層のアプリケーション提供プラットフォームも前提としたOSにより、垂直統合型ユーザー体験(UX)の高い完成度を武器に高い評価を獲得した(図1の変曲点1)。

 一方、この時点での携帯電話産業における非主流プレーヤーたちは米Google(グーグル)陣営に参画し、「Android OS」を主軸にした水平統合モデルを志向。「ハードウエアに従属するソフトウエア」という従来の思想から、ソフトウエアシステムを主軸としたビジネスへの思想転換により、ゲームチェンジを果たした(図1の変曲点2)。

 こうしてハードウエア主体の価値提供(電話機能+通信モデム機能)から、ソフトウエアを含めた価値提供(通信機能を持つPC以上の情報端末)への変換により、旧来のキングプレーヤーであったフィンランドNokia(ノキア)や米Motorola(モトローラ)などはポジションを大きく下げ、Apple、あるいはGoogle、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、Sony Ericsson Mobile Communications(現ソニーモバイルコミュニケーションズ)などが主要プレーヤーとして台頭することとなった。