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 これまでの連載では、DX(Digital Transformation)を阻む理由や各種企業における先進的取り組みについて、各種事例を基に進化の方向性を論じてきました。今回は、もう少し俯瞰(ふかん)的な視点から、「現地現物」を超えた新たなパラダイムが登場する可能性について議論したいと思います。

時代の変化と共に崩れ得る障壁・前提

 技術がもたらすパラダイムシフトを考える上で最も重要な点は、「当然と思われている前提が崩れ得る瞬間」に着目することにあります。なぜなら、その瞬間に、新しい時代が訪れるからです。

 今回は、産業エコシステムにおいて、長く当然と思われていた前提を崩し得る技術の一例を紹介します。それは、「Federated Learning(連邦学習)」です。これは、技術的にはDeep Learning(深層学習)の進化版であり、データを取り巻く産業エコシステム的観点から捉えたときに大きな変化の予兆となり得る存在です。

 これまで紹介した通り、R&Dを取り巻くさまざまな活動が、段階的にデジタル化しつつあります。各企業の活動は、時間の経過と共に、徐々にデジタル化が進展していくでしょう。

 一方で、世界の経済活動において複数の企業が協調・競争し合いながら進化するというパラダイムを前提に置くと、各企業は一定の利害関係を持つため、各企業の持つデータを開示しません。このことがDXの制約になるだろうという意見は多いです。

 近年のIT業界の進化を支えてきた機械学習・深層学習といった技術は、大量のデータを必要とします。多くの場合、1社では学習に十分なデータを得られず、かといって各社のデータは利害関係やセキュリティーリスクによって共有されないため、これがDXのハードルになっている側面は確かにあります。

 では、その制約を超える技術が出てきたとしたらどうでしょうか。そうした技術の1つが、連邦学習なのです。

 連邦学習自体は、2017年に米Google(グーグル)が公開した記事によって広まったコンセプトです。簡単に説明すると、複数の場所で異なるデータを保有し、それぞれ独立に学習した後、複数のエンティティー間で学習結果のみを共有し、それを他の場所の学習結果と比較することで、生データを開示することなく大量のデータをベースにした学習を実現する技術です(図1)

図1 Federated Learning(連邦学習)のイメージ
図1 Federated Learning(連邦学習)のイメージ
(出所:アーサー・ディ・リトル・ジャパン)
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 こうした考え方は以前も提唱されていましたが、近年のIT産業では急速に採用の検討が始まりつつあります。例えば、保険や製薬などのデータは、他企業に開放するには課題があるものの、直接共有せず学習結果などの形で間接的に企業間で共有することでより有効な解析ができるとして、産業横断的な利用が検討され始めています。

前提の変化がもたらすパラダイムシフトの可能性

 さて、ここで思考の枠を広げて考えてみましょう。これが、製造業に適用された場合に、革命的な変化が起きる可能性はないでしょうか。