半年強にわたり、「製造業R&Dのデジタルトランスフォーメーション」と題して連載してきました。本連載の狙いの1つとして、R&Dに関わる人が抱く「デジタルトランスフォーメーション(DX)とはいったい何なのだろう?」という疑問にお答えすることがありました。
DXをひと言でいえば、デジタル技術活用による業務やビジネスの変革です。その中でR&DのDXとは、デジタル技術活用によるR&D業務の変革であり、誤解を恐れずにいえば、デジタル技術を活用した研究開発の方法論・考え方にすぎません。ただし、「要するに開発にどんなデジタル・ITツールが使えるかを考えればよいんだよね」などと、単なる効率化の手段として捉えるのは危険であると、あらためて強調したいと思います。
DXを俯瞰して捉える
現在、製造業を取り巻く環境は、デジタルの影響によって変化しています。例えば、筆者が関わりの深い自動車産業でいえば、大きく3つの変化が起きています(図1)。
1つめは、「作り方」の変化。これは、研究開発の変化(R&D DX)や、製造の仕方の変化(工場のデジタルファクトリー化)などが含まれます。
2つめは、乗り物としての「クルマ(製品)」の進化。大別すると、電動化技術や新規燃焼技術などの「パワートレインの変化」と、コネクテッドや自動運転技術などによる「人・社会と車のインターフェースの変化」が挙げられます。
3つめは、「使い方」の変化。シェアリングサービスの普及や、MaaS(Mobility As A Service)という概念の進化は、自動車の使い方や自動車への要求を変化させています。
そして、これら3つは独立した事象ではなく、相互に影響を及ぼしています。例えば、自動運転技術の発展は、運転手の負担軽減や事故リスク低減という価値を実現する以外にも、シェアリングサービスの進化と組み合わさることで「ロボタクシー」「小型自動搬送機」といった概念へ広がり、ロボットと自動車の垣根を曖昧にしていきます。
「使い方」の変化を無視して「クルマ(製品)」の変化を企画し、現在の使い方の延長にデジタル技術の活用を求めるだけでは不十分なのです。
同じことが、R&Dや製品の作り方にもいえます。製造業の製品の付加価値はソフトウエアによって拡張されていくこと、そしてそれに対応した開発プロセスは、恐らくハードウエア中心の従来開発プロセスとは異なることを本連載の第2回、第3回で述べました。
作ろうとする製品がどう変わるのかを理解し、R&D DXを行うことが重要です。加えて、製品のさらに上流、顧客の求める価値(ニーズ)や提供手段となる技術(シーズ)の変化を、未来情報から俯瞰(ふかん)的に把握することも有効ですし、そのプロセス自体をR&D DXの一環として取り込むことも考えられます。製品開発よりも上流の研究・先行開発を進めるに当たっては、必須となるでしょう。
一朝一夕にはいかないR&D DX
一方で、ベテランの中には、こうした取り組みに懐疑的だったり、「言い方を変えただけ、いわば古い酒を新しい革袋に入れただけの話だろう」と冷めた目線を送ったりする方も一部にいます。