新型コロナウイルスによって、全世界で自動車や電機、通信などの大型展示会が次々と中止に追い込まれている。業界に深く根差していた展示会の中止は、各社の事業にどのような影響を及ぼしたのか。イベントへの参加経験が豊富な4人の識者によるオンライン座談会の模様をまとめた。
参加者は、オーディオビジュアルを専門とする評論家の麻倉怜士氏、パナソニック傘下の家電ベンチャーShiftall最高経営責任者(CEO)の岩佐琢磨氏、情報通信総合研究所ICTリサーチ・コンサルティング部上席主任研究員の岸田重行氏、自動車ジャーナリストの桃田健史氏。司会は日経BP総合研究所上席研究員の菊池隆裕が務めた。(構成は高野 敦、久保田 龍之介=日経クロステック)
相次ぐ大型展示会の中止で、どのような影響が出ているか。
麻倉氏 オーディオビジュアル機器の取材やコンサルティングをしているが、参加したのは2020年1月開催の展示会「CES」が最後だ。私の仕事は、ニュースリリースを基に記事を書くことではない。例えば、8Kテレビの新製品が出たら、この目で見て私の感性でリポートする。この目で見るかどうかで全然違う。ところが、新型コロナによって企業や展示会で製品を見ることができなくなった。先日も、ソニーの8Kテレビを銀座のソニーストアに見に行ったほどだ。
岩佐氏 僕らのような家電ベンチャーにとっての展示会とは、記者に製品を紹介したり、ディーラーを探したりするための場所。現在はそういうイベントがないので、売るのが難しい状況だ。これまで展示会に使っていた自分や会社のリソースを、今は開発や社外とのアライアンスに投入している。それはそれでいいが、先行きは不安だ。オンラインイベントの使い方については、大手メーカーを含めてまだ誰もよく分かっていないのではないか。
岸田氏 通信業界では、毎年2月下旬に世界最大級のイベント「MWC」があるが、今年は中止になった。古くから参加しているエリクソン(スウェーデンEricsson)が撤退を宣言したのがトリガーとなり、その1週間後に主催者が中止を宣言した。毎年MWCに参加していることが顧客への提案やコンサルティングの足場になるので、中止が決まったときは、「今後半年から1年の仕事はどうなるのか」という感覚だった。現在、設備ベンダーはウェビナー(オンラインセミナー)で積極的に情報発信している。ただ、MWCならではの情報の集め方、感じ方があり、(ウェビナーでは)そこは埋め切れない。