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「我々の提案は、お客様にスーパーICチップ入りの超小型シールを腕に貼っていただき、RFIDと無線位置確認装置を駆使して、好みの食事の提供や体調管理をしようというものです。そうそう、家族や友人がどこにいるかも判明するという画期的なシステムでした。つまり、カップルや家族で来た人には、お連れの方の居場所がすぐに分かるというものです」
「そりゃすごい。健康ランドは男女一緒にいられるゾーンばかりじゃないしね」と中田部長も感心します。

「そうなんです。愛犬にもICチップを貼ることで、ペットとも一緒に楽しめる健康ランドだったんです。犬のエステもありまして」
 愛犬家の桜井君は目を輝かせて「それはすごいなあ、行きたいなあ」と小さな声でつぶやきました。

(イラスト:尾形まどか)
(イラスト:尾形まどか)
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「このプロジェクトは丸3年の工期でして……プロジェクトにかかった費用は既に数億です。ところが、完成直前にリース会社から打診がありまして……」


「というわけで楽多社長、このリース契約は無効になりました。システムの構築料金はワンダフルさんから直接もらってください」
「なんですって?」
「当社、アメリカン銀行リースはこれで手を引きます」
 派手なYシャツを来た若いリース会社の営業マンがそう言いました。

「ちょっと待ってください、アメ銀リースさん。ワンダフルさんに、今そんな現金はありません」
「そんなこと当社の知ったことではありません」

「うちはこの2年半、必死で資金繰りをしてきたんだ。プライム契約では完工しないと金が入ってこないのに、毎月社員の給料は払わなければならない。私は自宅まで抵当に入れて金を借りてるんだ。3カ月後に、金が一括で入らなければ大変なことになるんです」
 すっかり動転してしまっている楽多社長です。

「もう、うちは関係ありません。この契約はワンダフルさん側が原因で破棄することになりました。契約条項をよく読んでください、本日はそれをお伝えにきました」
「うちはどうなるんですか?」 すがる楽多社長です。
「だから、直接回収なさるか、どこか違うリース会社をお探しになるか、ですね」

「そんなこと無理ですよ、開業直後なんて資金繰りが厳しいし、第一、御社が契約破棄したものをどこが引き取るっていうのですか!」
「とにかく当社は、契約書に則り本契約を破棄することを宣言します。文句があるなら裁判でもなんでもやったらどうですか」

 甲森取締役が食いしばった歯の奥から声を出しました。「汚いぞ、お前ら! 都合のいいときは企業の資産を有効に活用しましょうとか、なんとか言っておいて、これじゃただの金貸しじゃないか!」
「あれぇ、甲森さん、勉強不足ですね。リース会社は金融業ですよ。今更なにを、あははは。楽多社長、こんな人が役員だと苦労しますね。長く社員やってるってだけで、役員にしちゃうから世間知らずの役員が出来上がるわけだ。けけけけっ」

 冷たく笑った後、若い営業マンが切り出しました。「でもね、社長。たった1つだけ方法があるんですよね」
「なんですか? なんでも協力します。助けてください」
 楽多社長は椅子から降りて頭を下げたのでした。
「楽多ソフトさんが連帯保証を打つんですよ」


「最初に契約を締結した後で、ワンダフルランドの地価が下がり担保割れしたんです。このままではリース契約は破棄。確かに、そういう特約付でした。そのままリース契約を実行するなら……当社に連帯保証してくれと」