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 セカンドシーズンも絶好調の「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第17話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 姿を消した協力会社のオフィスに押し掛けた桜井君とリエピーは、関係者とみられる甲森氏と向かい合っています。この協力会社は、第三営業部が事業部に昇格する前に桜井君が開拓した、菅原機械という大切な顧客のシステム開発を担当していました。事情を聞き出そうとする2人に、甲森氏はその協力会社とは何の関係もないと言い放ち、2人を追い出そうとします。

「はいはい、さっさと帰ってくださいよ」と、甲森氏が席を立とうとしたときのことです。
「帰るわけにはいきませんね」 突然、大きなスーツケースを持って入り口に現れたのは中田部長でした。

「あ、あんたは?」
「申し遅れました。この2人の上司、中田と申します」
 入り口にスーツケースを置いたまま中田部長は甲森氏の隣の椅子に腰をおろしました。
「甲森さん、よく似た企業名を看板にして居残ると、なにかと便利ですよね。売掛先には『うちはグループ会社です。売掛金を支払ってください』って言えばいいし、債務のあるところには『別会社ですよ』って言い訳すればいい。まったく便利なやり口ですな」と、中田部長は甲森氏に息がかかるほど顔を近づけて言いました。

「むむっ」甲森氏がひるみました。
「そもそも甲森さん、あなたは楽多ソフト開発の役員ですよね」
「あれ、そんなことまで調べて……弱ったな」 甲森氏の顔に表情が戻りました。

「うーん。ほとんどの人はこれで追い払えたのになあ。仕方ありませんね。あなたたちには負けました。状況をご説明しましょう。おっしゃる通り、私は楽多ソフト開発の役員です。休眠していた子会社を使い、さっきみたいなやり方で債権者を追い返しています」
 甲森氏はとうとうと語り出しました。

「原因もすべてお話しましょう。実は、あるお客がシステムのリリース直前に債務超過であることが判明しまして、リースがかからなくなってしまったのです」
「ええっ? それは大変ですね。プライム契約だったのですか?」と桜井君。
「この案件は、わが社始まって以来、最大規模のプライム受注でして」

「あるお客って、どこですか?」とリエピーこと後藤さんが聞きます。
「耳にされたこともあるかと思いますが、開業予定だったあのワンダフル健康ランドです」
 リエピーと桜井君にも記憶にあるその名前は、数週間前に新聞の大型倒産記事で見たものです。『開業直前に大型レジャーセンターが倒産』、確かそんな記事でした。