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 セカンドシーズンも絶好調の「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第18話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 第三営業部が事業部に昇格して、組織が大きくなった“弊害”が出てきました。坊津君は今攻めている大型案件の見積もりを、開発部の愛須課長にお願いしますが、相手にされず途方に暮れています。一方、猫柳君は、受注一歩手前まで来た顧客との信頼関係を、新任の根積課長のミスでぶち壊され、その顧客の社長から出入り禁止を通告されてしまいます。

「坊津さん、私は忙しいのです。どいてください」
「そこをなんとかお願いしますよ」

 会議からの帰りを待ちぶせていた坊津君ですが、愛須課長は目もくれず、手にしていた数冊のファイルをロッカーに戻し、違う数冊を取り出しました。
「坊津さん、とにかく私に依頼事項があるなら、上席を通してくださいませんこと。それが定石ですわよ、おほほほほ」
 そう言い残すと、愛須課長はまた別の会議に行ってしまいました。呆気にとられて見送る坊津君です。

「なんだありゃ……」
「ありゃダジャレだな」
 背後からにゅっと現れたのは、第二開発課の松本課長でした。

「うあ、竜一郎さん。もうでかい図体で突然現れないでくださいよー」
「がはは、坊津、また悩んどるな、がははは」
 大きな手でバシバシ坊津君の背中をたたきながら笑う竜一郎さんです。

「叩きすぎです。マジ、いてえよ。あの、愛須課長がですね。僕の頼みを聞いてくれないんですよ」
「そりゃ、お前の頼みを聞く義理はないわな、がはは」
「どうしてですか? 会社のために頑張ってるのに」
「そんなもん関係ないわな。お前、そんなことも分からんのか? じゃあ話をしてやろう」
 キョトンとする坊津君の襟首をつかむと、松本課長は彼を喫煙コーナーに引っ張り込みました。


 一方、ここはブルドッグ自動車の社長室です。静かな部屋の窓の外では、雨が降り出していました。
「……分かったら、もう帰れ」 そう言うと古戸社長はタバコを灰皿に押し付けました。

 しばらくの沈黙の後、猫柳君が口を開きました。
「……帰りません」少し語尾が涙声になってしまい恥ずかしくなりましたが、そんなことを気にせず話を続ける猫柳君です。「ひと言、言わせてください」
「なんだと? もうお前のところとは取引はせんと言うておるんだぞ」
「いいんです。社長、今までどうもありがとうございました」

 古戸社長は面食らいました。
「居留守を使って君をほったらかし、今までの約束を一切反故にすると言っておるワシに礼を言うのか」