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 セカンドシーズンも絶好調の「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第20話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 開発協力会社が“失踪”するという、第三営業部が事業部に昇格してから初の大事件は、桜井君とリエピーの頑張りと中田部長の活躍でなんとか乗り切ることができました。そんな折、上場企業から大きな商談がリエピーに舞い込みます。一方、猫柳君の新規開拓の努力をすんでのところで無にするところだった根積課長が、またぞろ不可解な行動を始めました。

「おはようございますっ! このたびはお引き合いいただきありがとうございます、あたくし後藤と申します。よろしくお願いいたしますっ! あわわわ」
 ここは上場企業、王子繊維の役員応接室です。名刺交換をしたリエピーこと後藤さんでしたが、おおぶりでフカフカのソファは小柄な彼女が勢いよく座ると体が半分くらい沈み込んでしまいました。

「わはは、元気のよいお嬢さんだね。こちらこそよろしく頼むよ」
 総白髪で金縁めがねの上野専務がそう言いました。
「それにしてもお一人でおみえになるとは……」


 今朝のことです。
「プルルルッ! プルルルッ! プルルルッ!」
「はいはい、うるさいな。誰か電話取れって! 誰もいないの? もう後藤! 後藤がいるじゃないか! お前が……。あ、電話中か。仕方ないな」

 根積課長とリエピー、坊津君以外は全員外出中です。坊津君は会議室にこもっての作業中。リエピーもほかの電話に出ており、かかってきた電話を取れる人はいません。けたたましく鳴る電話を面倒くさそうに取ったのは根積課長でした。

「はいはい……あひ? お、おうじ繊維? 王子繊維がなんの御用で……は、かしこまりました。上野専務様ですね! それではえーっと。今すぐ参りますので」
 根積課長とリエピーが電話を切ったのは同時でした。
「もう根積課長! さっさと電話取ってくださいよ!」
「うるさい、ちょっと聞け!」

 いきなり口論の二人です。根積課長が説明するには、今の電話は一部上場の王子繊維という会社で、今すぐ営業と会いたいとのこと。用件は、至急システムの見積もりを取りたいとのことでした。

「あやしいですね……。それって中田部長が先週やった『取引先リスク管理勉強会』での、要注意ケースに当てはまるんじゃないんですか?」
「なんだ、そりゃ?」

「楽多ソフトの一件もあって、お客さん、協力会社を問わずに危険な取引先や引き合いを見分ける勉強会をやったじゃないですか。あ、根積課長は欠席だったからご存知ないんですね」
「なんでもかんでも、中田部長、中田部長ってお前らは……俺はベテラン課長なんだよっ! あんなやつの話なんか聞かなくたって」

「あー、言いつけてやろうっと。『飛び込み電話の引き合いは100%危険』って、ほら、あたしのノートにも書いてありますよ。それに、今すぐ来なさいですって? 『客が急ぐ商談は100%危険』って、ほらもう合計200%の危険度ですよ」
「グダグダ言ってないで、ヒマなんだろ。とっとと行け。お前の今日のスケジュールはチェック済みだ」

 入社以来、先輩のフォローばかりで最近つまらないし、早く自分でも新規受注を取りたいリエピーでもありましたので、しぶしぶながら根積課長の指示に従うことにしたのでした。