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 セカンドシーズンも絶好調の「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第21話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 リエピーこと後藤さんに、一部上場企業から大きな商談が持ち込まれた、ちょうどその日、坊津君は前日から小さな会議室へこもって、徹夜の作業を続けていました。「氷の女」と恐れられる開発部の愛須課長に案件の見積もりを拒絶され、途方にくれていた坊津君ですが、同じ開発部の松本課長が助け舟を出してくれました。しかし、その松本課長も難物で……。

「ほかに連絡事項がなければ本日の朝礼は終わります」
 開発部の片隅で待っていた坊津君が、夜を徹して作った見積もり用資料を抱え、松本課長に駆け寄ります。

「おっしゃる通りに、やりましたよ。竜一郎さん。これでいいですか?」
「おおっ、作ってきおったか……ふーん、ふんふん」
 何も言わずに資料を見ていた松本課長ですが、数分後「こんなもん通用せんわ」と言うやいなや、一抱えもある資料をゴミ箱に叩き込みました。

「なにするんですか! ひ、ひどいじゃないですか」
「あ、そうだな。こりゃひどいな」そう言うと松本課長はゴミ箱からファイルを取り上げました。
「ISO14000だったっけなあ。このまま捨てたら俺が叱られちまう」 松本課長は、用紙からクリップを全部外し、もう一度資料をゴミ箱に捨てました。

「一度ならず二度までも、いきなり捨てるなんて! アンタが言った通りの資料じゃないですか!」
 ゴミ箱から拾い上げると坊津君は説明を始めました。
「これはプログラムの名前の一覧、これは入力画面と検索画面のデザイン、そりゃ僕の手書きですけど、で、これは出力系、帳票のイメージとか……これは……全部アンタが言った、そのままじゃないか!」

 松本課長の机に資料を叩きつけ、睨みつける坊津君。松本課長も鬼のような形相でゆっくり立ち上がると、額をぶつけそうな距離でこう言いました。
「俺が読めるものを作ってこいって言ってるんだ! バカタレが!」
「あんたは、日本語が読めないんですか!」
「ああ、読めないね! 出直してこいっ!」
「ぐぐぐぐっ。で、出直してきますよっ!」
 怒りに震える坊津君でしたが、松本課長の勢いを前に引き下がってしまったようです。


「コン、コン」
 突然、坊津君のこもっている会議室のドアがノックされました。4人も入ればぎゅうぎゅうの小さな部屋で、なぜか掃除道具が入れてあります。自席にいると電話がかかってくるし、猫柳君やリエピーはうるさいし、部長や課長に呼ばれるしで、ただでさえ考え事が苦手な坊津君です。作業に集中したいときは、この物置みたいな部屋を使うようにしているのでした。