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 セカンドシーズンも絶好調の「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第23話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 徹夜で作った見積もり資料を開発部の松本課長にゴミ箱に捨てられ、悔し涙にくれた坊津君。その坊津君に救いの手を差し伸べたのが、なんと「氷の女」と恐れられる愛須課長でした。愛須課長からもらったヒントを基に、坊津君は再び徹夜して見積もり資料を作成します。その資料を松本課長に手渡したとき、坊津君に営業としての転機が訪れます。

 もう一度、坊津君が竜一郎さんこと松本課長のところに来たのは、2日目の徹夜があけてフラフラになった朝でした。とにかく提案を間に合わせなければなりません。本来なら客先に顔を出して、情報収集に努めなければならない時期ですから、早く見積もりの準備を終えなければなりません。

 受注実績が認められ今年から事業部になったといっても、まだまだ案件は少ない第三事業部です。新規の引き合いで、ここまでこぎ着けたのだから、なにがなんでも提案を見送るわけにはいかないのです。

『俺は、せっかくの愛須課長のヒントを生かすことができたんだろうか?』
 そう自問自答しながら松本課長の前に歩みでた坊津君でした。
「これでどうでしょうか? 読んでいただけますか?」

「うーむ、むむ」
 受け取った資料を黙って読んでいた竜一郎さんでしたが、やおら立ち上がり、資料を持ったまま喫煙コーナーに行ってしまいました。あわてて、後ろをついて行く坊津君です。

「ま、待ってください、なんとか言ってくださいよ」
「うるさい。黙って缶コーヒーでも買ってこい」
 眉間にしわを寄せながら、松本課長は坊津君に向けてピーンと500円硬貨を指で弾きました。
「おわっ」と受け取る坊津君。
「ナイスキャッチ、俺はブラックだからな」


 喫煙コーナーのスツールに座りながら、タバコを2本吸い終わる間、じっくりと資料を見ていた松本課長でしたが、「こりゃ、もういらんな」と言って、坊津君に資料を突き返しました。

「ええーっ、ま、まさか。またですか?」真っ青になる坊津君です。
「まあ、ちょっと待て。もう俺の頭に入ったんだ。いらないと言ったんじゃない」
 そういって何枚かの用紙とペンを取り出すと、松本課長はすらすらと書き始めました。10分ほど経過したとき、机の上には坊津君が必要と思う枚数の何倍もの資料が出来上がりました。

「こんなもんで、ええか?」
「いいも悪いも……まるで魔法だ。どうして僕が2日もかかった資料が……」
「わはは、説明してやろう。しかし、その前に聞け。お前に言っておきたいことが3つある」

「1つ目は、SEの言葉について理解してほしかったということだ」
「何のことですか? 言葉って……、あっ!」
「気づいたか? お前は昨日『日本語で書いてあるのに読めないのか!』って怒ってたよな」
「そうでした……愛須課長にいただいたヒントのおかげで」