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 セカンドシーズンも絶好調の「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第24話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 800台のノートPC、2億円近くの商談。いつもポジティブな気持ちで頑張るリエピーこと後藤さんに、ようやく訪れた大きなチャンスです。ところが、こともあろうに上司である根積課長が商談を横取りしようとしているようです。リエピーには、顧客の機密事項だから誰にも言うなと口止めし、“宿敵”であるロムラン電子の遠藤部長と密談する根積課長ですが……。

「それは興味深い情報ですね」
 遠藤部長の鋭い目がキラリと光りました。

 ここはロムラン電子本社近くの割烹です。遠藤部長は仲居さんに、こちらから呼ぶまで席を外すように言いつけ、一段声のトーンを落として話を始めました。
「で、あの王子繊維がウエノグループと子会社を新設する。そこにノートパソコンを800台ですか」
 そう言って遠藤部長が江戸切子の猪口に入った冷酒をぐいっと空けました。

「で、根積さんが描いた絵を教えていただけますか? こちらも表だったトラブルは困りますからね」
「私の考えた段取りはこうです。当社が見積もりを出します。ハードはDELO製にします」
「いや、それはまずい。DELOは安すぎる。うちが潜る(見積もり価格を相手より低くすること)にしても、利益がでない」
「うーん、では日本HBでいきましょう」

「おや、懇意にしているメーカーから指し値で見積もりを取るのではないのですか?」
「いいえ、メーカーに見積もり依頼など出しません。担当の女の子と私しか知らない案件ですから。極秘案件なので私が許可を得てあると言えば分かりません」
「素晴らしい! さすが、あなたは本物だ。くっくっく」

「それで、その数時間後にロムランさんが偶然、見積もりを持っていく、と」
「偶然、800台。それも貴社の見積もりをほんの少し下回る価格でね」
「うひひひ、私の処遇もよろしくお願いしますよ」
「もちろんです。根積さんには、当社でウエノダンディの担当になっていただきますよ。こんな大きなお土産案件を持ってきてくれるんですから、待遇もできるだけ便宜を図りましょう」


 それから数日後、第三事業部のオフィスの廊下で、ぼんやり窓の外を見つめるリエピーを見つけ、内藤課長代理が声をかけました。
「どうしたの、後藤さん。なにたそがれているの?」
「うわっ! 内藤さんじゃないですか!」
 突然、リエピーが叫びました。

「おいおい、どうしたんだい。浮かない顔で」
「……数億円の見積もりを出したとして……1週間で結論を出すと言ったお客さんと急に連絡がとれなくなったとしたら、内藤さんならどうしますか?」

「ええっ、連絡が取れないって? そんなことあるわけないよ。オフィスに電話が通じないの?」
「いえ、事情があって役員のケータイにしか電話できないんです」
「事情って、どんな事情?」
「あっ、も、もういいです、この話は聞かなかったことにしてください」 そう言うと、リエピーは逃げるようにオフィスに戻りました。