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 ファイナルシーズンに突入した「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第28話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 第三営業部、改め第三事業部のメンバーは、第一事業部でお手上げとなった大失敗プロジェクトの後始末を任せられ、不眠不休の毎日です。御用聞きにもならない営業活動、二転三転する開発体制、失敗の原因が明らかになるにつれて、そのあまりのいい加減さに憤る坊津君や猫柳君です。ところで、最近めっきり影が薄い桜井君ですが、なにやら動きがあったようです。

「というわけなんですが、出し直してよろしいでしょうか。こちらの見積もりが過去に出しているモノでして…」
 既に基本設計に入っているのに見積もりの再提出となったラビット製薬の件を、鮫島営業部長が鯨井第一事業部長席に報告にきました。

「よろしいも、なにも、値切られてるわけじゃなし。こちらとしては受注の総額が下がらなければ、それでいいじゃないか」
 書類をちらりと見ると、読みもせずに返事をする鯨井事業部長です。
「まあそれはそうなんですが」
「なんだね?」

「いや、その…」 鮫島部長が恐る恐る言葉を継ぎました。「そもそも派遣型の仕事から脱却するために、エンドユーザー直取引、つまりプライムビジネスを進めようという方針があるわけですよね」
「何が言いたい?」
「だから今回は、人月単価を出さないという条件で、厳しい金額で契約をいただいた……それなのに……」

 鮫島部長がそこまで言いかけたところで、深々とハイバックチェアに腰掛けていた鯨井事業部長が腰を浮かせて机を叩きました。

「そんな分かりきったことを貴様に言われる筋合いはないっ! だいたい営業経験もろくにない派遣SE上がりの分際で、元IBWの私に説教する気かっ?」
「ひえっ!」
「お前なんか、年くって単価が上がりすぎたから、SEじゃ売れなくなって営業してるだけだろうが! 俺に口答えするなんて10年早いんだよ!」

「しかし……私も営業部長として……」
「なにが営業部長だ。部下もいないのに威張ってるんじゃない! とにかく貴様は言われた通りにやればいいんだ。今まで通りに、客と私に言われたことだけやっておけ。まったくお追従を言うか、ゴルフの段取りしか能がないくせに!」

 怒鳴るだけ怒鳴ると、どっかりと椅子に座り直して、くるりと背を向けました。そして「そうだ、来週から5月じゃないか。その亀井部長とやらをゴルフにでも誘い出せば、どうなんだ」と背中越しに言う鯨井事業部長でした。

 ラビット製薬の亀井部長が、健康上の理由で前職を退任したこと、それが原因でゴルフをしないことなどを、もはや鯨井事業部長に説明する気にもならない鮫島部長でした。