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 ファイナルシーズンに突入した「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第29話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 初の営業志望で入社した“期待の新人”が登場しました。ただ、この万田君、関西人らしく口は達者ですが、お調子者。軽くむかついた桜井君は、難しい交渉が必要な現場へ連れていき、仕事の厳しさを見せつけようとします。一方、坊津君や猫柳君が担当するラビット製薬の案件ですが、仕様変更の連続で追加料金も取れない原因は、どうやら昨年5月の出来事にあったようです。

 地下鉄に飛び乗ったのは18時を回った頃でした。
「先輩、こんな時間からで大丈夫なんですか?」
 研修帰りのくたびれた顔で万田君が聞きます。
「いま電話してたってことは、相手がいるってこと。だから……」
「電話切ったら、帰ったかもしれませんやん」
『こいつは話の腰を折る奴だなー』と思いましたが、「いいんだよ」と返事をする桜井君です。

「それより今から行くとこの話なんだけど」
 桜井君は辺りを見回して、誰にも聞かれないように確認してから説明を始めました。
「中小の運送会社なんだけどね。トラブってて」
「状況は?」
「1年前に受注して半年の納期が9カ月で納品。やっと動き出したと思ったら、うちの協力会社のプロマネが入院してサポート不能になっちゃったんだ」

「それで?」
「先月、バグが出たんだけど改修不能で1週間」
「他のプロジェクトメンバーは?」
「新しいプロジェクトに入って、対応不可能だってさ」
「で、プロマネさんは入院と」
「うん。保守料はいらないから、サポートを辞退させてくれって、今そこの営業部長から電話があったんだ」
「うちのSEでサポートできますのん?」

 さっきから上司に問い詰められてるみたいで、ちょっと腹が立つ桜井君でしたが、関西弁でポンポンと言われるとつい答えてしまいます。