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 ファイナルシーズンに突入した「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第30話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 内藤課長代理とりえぴーのコンビが攻める北北工業の案件は、いよいよ最終提案の時を迎えます。競合はIBWとジャパン電気の大手2社。なにか腑に落ちないものを感じる内藤課長代理ですが、完璧なプレゼン資料を作成したようです。一方、桜井君は新人の万田君をつれて、顧客のシステムのサポートを渋る協力会社に乗りこみますが、これが一筋縄で行きそうもなくて……。

「それではこれで当社の提案を終了させていただきますが、質問がございましたらお願いします」
 プレゼンが終わり、りえぴーこと後藤さんが周りを見まわして言いました。

「後藤さん、敬語おかしくないかい」
 小声でそっと聞いたのは内藤課長代理です。ここは北北工業の大会議室。今日は最終提案ということで生産管理システムのプレゼンにやってきました。

「いつも『チョーむかつく』とか言ってるから、おかしくなっちゃうんだよ。『ございましたら』じゃなくて、正解は『おありでしたら』だよ」
「大丈夫、みんな気づいてませんよ」

 本社工場の大会議室には20人程度の北北工業社員が話を聞いていました。持ち時間は60分で、質問時間を10分残しました。几帳面な内藤課長代理ならではの完璧な配分です。正面にはプレゼン用のスクリーン、脇にはホワイトボードがあります。そのホワイトボードにはIBWとジャパン電気の名前が書いてありました。

 質問がありません。最終提案は3社。トップバッターだったようです。気まずい時間が流れました。

「どうやら、このあと2社のご提案があるようですので、当社は早めに終わりまして、お疲れの皆様に休憩の時間を提供したいと思います」
 機転を利かせたりえぴーの発言に、張り詰めた会議室にどっと笑い声が響きました。
「当社はユーザーオリエンテッドに仕事を進めるのがモットーでございます」
 重ねて言うりえぴーに漆原助手が笑いながら言いました。
「あはは、素晴らしいご提案ですが、折角ですので、どなたも無いようでしたら私から」
 コンサルで入っている城南大学の漆原助手が質問を始めましたが、それが呼び水になり他の人も質問をはじめ、結局時間いっぱいまで質疑応答が続きました。

「なんだか盛り上がったね」
「チョーいけてますよ、あたしたち!」
 プレゼンが終わり、内藤課長代理とりえぴーが廊下でノートPCや余った資料を片付けていると、漆原助手と木梨特別研究員が通りすがりに言いました。

「お疲れ様です。大変良いプレゼンでしたよ」
「どうもありがとうございます、当社といたしましても精一杯やったつもりです」
「ぜひ、りえぴーを指名してね!」
「あはは、後藤さん。キャバクラじゃないんだから、指名するわけにはいかないよ」