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 ファイナルシーズンに突入した「第三営業部」。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第31話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 万田君はとてつもない新人でした。顧客のシステムのサポートで法外な条件を出してきた協力会社に対して、ドスをきかせた交渉術で見事、譲歩を引き出し、窮地にあった桜井君を救いました。その万田君の秘密が、今回明らかになります。ところで、北北工業を攻める内藤課長代理とりえぴーこと後藤さんのもとには、コンサルとして入った城南大学から嬉しい知らせが……でも……。

「いや、おみそれしたよ、マンちゃん。すごかったね」 
 居酒屋で万田君と遅い夕食をとっている桜井君は新人である後輩の度胸と交渉力に感服していました。

「いや、桜井先輩がええ線まで詰めてはったからですやん。僕はトドメを刺しただけですよ」  万田君は焼き鳥をほおばりました。
「なんにせよ、入院中のSEを呼び出して作業を開始してくれるそうだから、良かった、良かった。でも、ああいう交渉はどこで習ったんだい?」
「そう言われても……都合の悪い本音を引き出し言質とって、ハンコ押させろっちゅうのは交渉の基本かと」

「だから、そういうのをどこで勉強したんだよ?」
「そんなん聞かれても……バイトでクレーム処理してたからかなあ」
「どんなバイト?」
「まあええですやん、いろんなバイトをちょっとずつ、ですわ」そう言ってお茶を濁す万田君でした。

 実は、万田君は営業研修で法律を学んで、学生時代に地元の大阪でやっていたバイトが合法であるかどうか自信がなくなっていたのです。

「それより先輩、法律は詳しいですか?」
「そりゃ、中田さんが営業は法律に明るくないと一人前じゃないって言ってるからね。一応勉強はしてるよ」
「ほんなら、こんな仕事についてどう思わはりまっか?」

 桜井君の話次第では辞表を書かなければならないかなと思う万田君でしたが、腹をくくって訥々と学生時代のバイトのことを「友人」のこととして話し始めました。


 りえぴーに城南大学から内定の知らせが来たのは、あのプレゼンの1週間後のことでした。
「ど、どうしましょう! 内藤さん!」
 取る物も取りあえず、二人は城南大学のキャンパスに急ぎました。そこで二人を待っていたのは、驚くべき提案を準備していた木梨特別研究員と漆原助手でした。

「え、いま……なんとおっしゃいましたか?」
「貴社が北北工業の案件を受注なさったのですが、条件があると申し上げたのです」 りえぴーの質問に、そう木梨研究員が答えました。