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 「第三営業部」のファイナルシーズンも残りわずか。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第33話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 第三事業部が火消しとして引き継いだラビット製薬の失敗案件には、根深い問題がありました。愛須課長がプロジェクトマネジャーを引き継ぐ前に、2 人の前任者がいました。今回は、1人目のプロマネが消えた訳が明らかに。一方、北北工業の案件でコンサルに入った城南大学の“ピンハネ”に直面した内藤・後藤(りえぴー)のコンビは、北北工業に向かっているようです。

「ばかもーん!」
 今日も亀井情報システム部長の怒鳴り声が聞こえる5月末のラビット製薬会議室です。

「2カ月経過した現在で納期が3カ月遅延」という報告を受けて怒り狂う亀井部長でした。 「一体全体、どうしてそんなことになるんだ?」
『ほらね、誰でも怒るよ』と営業担当の鮫島部長は思いましたが、仕方がありません。プロジェクトマネジャーの岩志課長はうつむいたままです。

「岩志! 貴様、なんとか言わんか!」
『うわ、呼び捨てだよ。よその社員をつかまえて。指揮命令系統もなにもあったもんじゃないなあ』そう鮫島部長が思ったとき、岩志課長が口を開きました。
「しかし、御社の方々がおっしゃることをまとめますと、このように仕様が膨らんだわけでして……」

「ばかやろう! 貴様らはITのプロだろうが! わしらは素人なんだから、適切なアドバイスをするのが義務だろう。それじゃなにか? 納期遅れはワシらの責任だと言うのか!」
「亀井さん、最初にプロマネはワシだと宣言しておいて、都合が悪くなったら自分たちはアマチュア気取りですか。そんなの都合よすぎません?」
「なんだと貴様! もういい! こいつはクビだ! 鮫島、新しいプロマネをつれて来い!」
「ええっ?」
「こんな無能なやつは出入り禁止だ!」

 そう叫んで部屋を出て行った亀井部長に、鮫島部長はもとより、ラビット製薬の社員もあっけにとられたままでした。
 そうして1人目のプロマネが消えました。


 私鉄で1時間。北北工業は、タクシーもいない小さな駅から徒歩20分のところにありました。
「内藤さん、どうして北北さんはこんな田舎に工場があるんですかねえ?」
「なに言ってるんですか、後藤さん。土地の高いところに工場を建てればコスト高でしょ」

 中田事業部長の指示通り、北北工業に電話をしたところあっさりアポイントがとれたので、少し拍子抜けの感で交渉に向かう今日の2人です。

「あ、そうかなるほど。提案のとき経営企画室長が『ITもコスト削減の提案が必須です』っておっしゃっていましたものね。でも、こんな田舎じゃ通勤する人も不便じゃないですか、あたしは無理だな」
「自宅近くで働きたい人が大勢いるわけですから、この近辺に住んでいる人たちには好都合なんですよ」
「ふーん、そういうもんかなあ。あたしみたいな都会的美人はオフィス街しか似合わないですから、こういうところじゃ浮いちゃって困りますね」

 バーゲンで買ったのであろう新しいグリーンのコートを見て、さっきから「アマガエルみたいだなあ」と思っていた内藤課長代理でしたが、それを口にすることはありませんでした。