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 「第三営業部」のファイナルシーズンも残りわずか。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第34話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 昨年10月、第一事業部のお手上げプロジェクトだったラビット製薬の案件を引き継いだ第三事業部ですが、最初の担当は愛須課長と坊津君でした。愛須課長は開発のエース。その愛須課長を助けようと、坊津君は必死です。一方、城南大学と北北工業の案件は両者の癒着が明らかになり、内藤課長代理とりえぴーでは手に余るようになりました。中田事業部長の出番です。

「どうしてプロマネの交代理由がCASEツールの選択なんですか。私には理解できません」
 なんとかオンスケジュールにまで戻せそうなのに、第一事業部の海老沢課長はプロジェクトを去りました。

「結局、その……相性が悪いってことで……」
 説明する第一事業部の鮫島営業部長も歯切れが悪い話しかできません。「と、とにかく、もう第三事業部に任せたんだから、私はもう……」
 そう言うと、鮫島部長はラビット製薬の玄関できびすを返して帰ってしまいました。

「ちょっと待てよ! ……ここまで来て帰るか?」
「坊津君、仕方ないわ。あんな無責任な男、いてもいなくても一緒よ。放っておきなさい」
 やむなく2人は玄関横の受付を通り、定例会議が始まる会議室へと急ぎました。

「で、なにか引き継ぎはあったんですか、愛須課長」
「うん、生産管理サブシステムだけど、製薬業特有のロットトレースシステムを無理して自分たちで作っちゃったの。それで収拾がつかなくなってるわね」
「え、そんなのイチから作ってたんですか、うちのSE」

「あたしはパッケージを導入して対応を図ろうと思ってる。だいたいのアタリはつけてあるわ」
「別途仕入れが発生するんじゃないですか?」
「男ならガタガタ言わないの! スクラッチでズルズルやれば、どれだけ損害が出ると思ってるのよ」
「そりゃそうですが……」
「心配しないでいいわ。あたしがアタリをつけてるのはオープンソースだし」


 こちらは、城南大学と北北工業の根深い癒着の事実をつかみ、中田第一事業部長に報告をする内藤課長代理とりえぴーこと後藤さんです。

「話は分かった。では、まず方針を決めようじゃないか。我々も癒着に加担するかどうか、だが」
「そんなの卑怯だからダメです」と速攻でりえぴー。
「後藤さん、待ってよ。そういうことじゃなくてだ」

「冷静に考えて、彼らが現在提示しているマージンを提供することは不可能です」と内藤課長代理です。
「その通りだな。で、それはそうとして、そのマージンは値切れないのか?」
「不可能ですね。無理なら他の会社に頼むそうです」

「うむ。ではその線は諦めよう。次に正面きって、この癒着を指摘する、つまり癒着しているヤツラをやっつける方向で考えるとしよう」
「そうこなくっちゃ! 中田さん、超カッコイイ」と喜ぶりえぴーです。

「かっこよくてもビジネスで失敗しちゃダメだよ、後藤さん」
 そうたしなめながら、中田事業部長は話を進めます。「よし、そのソフト会社に乗り込もう。内藤君は内示書をもらってるんだろ?」
 そう言うと中田事業部長は、タクシーを呼ぶようにりえぴーに指示しました。


 会議室には、既にメンバーがそろっていました。
「遅いぞ」と亀井情報システム部長の怒号が飛びます。

 遅いわけがありません。こちらは5分前に到着しているのです。受付でずっと待たせていたのは、ラビット製薬の方です。坊津君はそう思いましたが、反射的に「すみません」という言葉が口をついて出ました。

『しまった。こういうふうに相手を抑えてリズムを作っていくつもりなんだな。中田さんに聞いておいてよかった。もうアタマなんて下げないぞ』