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 「第三営業部」は今回の第36話でついに最終回。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が、日経クロステックでもフィナーレを迎える。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 第三営業部の生みの親、加納副社長が窮地に陥りました。ラビット製薬とのトラブルは愛須課長や坊津君たちの頑張りでクリアし、いまや完全な信頼関係ができています。ところが、その事実をねじ曲げた報告書が役員会議に上げられ、トラブルを報告していなかった加納副社長は有効な反論ができず、解任の危機に。その窮地を救うのは、やはりこの人しかいません。

 あまりの卑劣な策略に、加納副社長は目の前が少し白くなるのを感じました。
『鯨井のミスを、中田君がカバーしようとしているのに、それに対する鯨井の裏切りはどういうことだ……そうか、このまま中田君がうまくカバーしようものなら、鯨井は降格なりの懲罰人事があるとでも考えたか。そこで宇尾野と利害が一致して……それとも、そそのかされてこうなったのか。いずれにせよ気づくのが遅かった』

「し、しかし、もう納品は目前であると聞いておりますが……」つぶやく声も震える加納副社長です。

「そう、加納副社長のおっしゃる通りです。既にカットオーバーは目前であります。それも、バグだらけのままで、です。このままでは検収が上がるわけがない。さらに訴訟も考えられます。従って先手を打ち、先方の非をついて即刻全員引き上げてから、あちらの出方を見るのもいいでしょう、社長」
「なるほど、なにごとも撤退基準というものが必要、ということですか」
「そうです、あんな無茶ばかりいう客は相手にしないのが、彼らにとっても良い薬です」

「ははは、ラビット製薬は薬屋だけに『良い薬』とはうまいこと言うね」
『ああ、バカ社長め』加納副社長は悶絶しそうです。
「では今年の売り上げ着地見込みは下方修正となるのではないですか?」
『これか! これが狙いだ』ここで、加納副社長は完全に理解しました。

「下方修正の責任は、やはりギリギリまで赤字プロジェクトの隠蔽を画策してきた加納副社長にとっていただくことになりますかねえ」
 宇尾野専務の言葉に、すべての役員が黙り込んでしまいました。最悪のシナリオです。

 加納副社長が責任を取り退任する。業績悪化でエンペラーソフトに支援を仰ぐ。エンペラーソフトから役員が派遣されて、吸収合併への幕が開くという寸法です。

『ここまで必死で頑張ってきた愛須君は、とうとう倒れてしまったというではないか。怒鳴られながら必死で人間関係を作ってきたと聞く坊津や猫柳、そしてなにより、こんなプロジェクトを引き受けてくれた中田君になんと言い訳すればいいのだろう』

 いまやラビット製薬の亀井部長とは、完全にリレーションができてきています。多少の遅れは出るかもしれませんが必ず検収はもらえるでしょう。今後は追加システムの案件も出る。

 そのリレーションを作ったのは第三事業部の面々ですが、これまでの経緯からそれを説明するわけにもいきません。鯨井第一事業部長がダメな客だと言えば、それが事実なのです。大きな信頼を寄せてくれているラビット製薬の人たちにも多大な迷惑をかけてしまう結果になることも、「システム屋、加納」としては辛い話でした。

 万事休す、どうしようもなくなったそのとき、加納副社長のノートPCに、中田第三事業部長がサインオンしてきたメッセージが表示されました。