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 あの「第三営業部」が帰ってきた。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説を日経クロステックに再掲。今回は第2話だ。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 課長に「2週間で顧客との関係を構築してみせる」と宣言した坊津君ですが、果たしてどうなることやら。話は、オフィスから坊津君と猫柳君が出てきたところから続きます。2人は事務所近くの居酒屋ののれんをくぐりました。カウンターが5~6席、4人掛けのテーブルが2つという小さな店で、2人はいつも通りカウンターに陣取りました。

「さすが坊津先輩、かっこいいっすね」猫柳君がおしぼりで顔をふきながら言いました。「おれ、感動しちゃいましたよ」
「まあな。オヤジさん、ナマ2つね」と坊津君が注文しました。
「あいよ。あと適当でいいかい?」
「2、3品でお任せしまーす」と猫柳君が言いました。

 早速、冷えた生ビールが2人の前に運ばれてきました。よほど空腹だったのか、小鉢の肉じゃがを一気に口の中にかきこみながら猫柳君は続けます。
「さあ、作戦会議ですよね。わくわくするなあ。で、どうやってお客さんとの関係を作るんですか?」

「え?」
「さっき課長の前で『やってみせるから』ってタンカ切ってたじゃないですか。あれですよ」
「そんなの……考えてねえよ」
「またー、なんか作戦あるんでしょ?」
「ないよ、バカ」
「はぁ?」

「勢いだよ、勢い。なんかこう、熱いもんがガーっとこみ上げてきちゃってさ」
「あーもうダメだ。この人、勢いだけだよー」
「仕方ねえだろ、ああでも言わなきゃ、課長は提案させてくれねえし。そういうお前は考えあんのかよ」
「考えなんてないっすよ。分かんないもん。そもそも顧客とのカンケーって何ですか?」

「そんなことも分かんねえのか…。そりゃ、あれだ。あの、その、お客さんと仲良くなるってことだ」
「仲良くって?」
「そりゃあ、仲が良いってことで……いちいち聞くんじゃねえよ。お前ね、ちょっとは自分で考えろよ」
「あ、やっぱり課長の言ってること、分かんないくせに勢いだけで……」
「なんだと、このヤロー」
「ああ、終わった…」

「オヤジ、空いてるか?」猫柳君が絶望しているところに入ってきたのは、第一営業部の鮫島部長代理です。
「お、これは、これは、第三営業部の若手お二人じゃないの? どうなの相変わらず売れないで困ってんの? むひょひょ」

 小柄で甲高い声を出す鮫島代理の後ろから、恰幅のよい鯨井部長が入ってきました。2人とも50代。なんとなく好対照で昔の学園ドラマの校長と教頭を思い出させるな、と彼らを初めて見た猫柳君は思いました。

 坊津君は小さな声で「イヤミなのが来た」と、ささやきました。第三営業部ができるとき最後まで反対したのが、この2人だという話です。

「あまり、そういうこと言うものじゃないよ、鮫島代理。今のわが社では売れなくて当然。売れるわけがない。オヤジ、ビールだ」と鯨井部長。
 2人はドカッと奥のテーブル席に座りました。
「仰せの通りでございます。では、この小僧たちは給料泥棒ということで? ぐふふふ」

 話す内容もさることながら、いつも語尾を薄笑いでごまかす鮫島部長代理の話し方そのものからして、坊津君は嫌いでした。坊津君と猫柳君は軽く会釈したあと黙ったままです。