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 あの「第三営業部」が帰ってきた。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説を日経クロステックに再掲する。今回は第3話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 居酒屋で偶然出会った第一営業部の鯨井部長と鮫島部長代理。坊津君と猫柳君は、鮫島代理の嫌味に耐えながら、鯨井部長から顧客の業界研究という “営業の秘策”を聞き出します。急ぎオフィスへ戻った2人は徹夜で資料を作り、意気揚々と提案先の平成スタッフに向かいますが、結果は惨敗。「出直してよ」の言葉に打ちひしがれる2人ですが……。

「おいおい、どうしたんだ。がっくり来ちゃって」
オフィスに帰ってきた坊津君と猫柳君に、内藤主任が声をかけました。

「聞いてくださいよー」猫柳君がイスをずるずる動かして、内藤主任ににじり寄りました。
「鯨井部長って、なんなんですか?」
「あ、あのIBW出身の人ね」
「顧客とのリレーションには、業界研究だって言うから……」
 猫柳君は内藤主任に今日の折衝を説明しました。

「うーん。で、業界研究ってどうやったの? だれか業界に友だちでもいたのか」
「とりあえず本で調べました」
「おれはネットで」坊津君も割り込んできました。
「あのね。そういう情報ってね、リクルート用っていうかな。学生向けの情報だね」

「え?」「なんですと?」ショックを受ける2人。
「そういう素人向けの情報で、お客さんのことを分かったような説明しちゃたんでしょ? そりゃ途中で退席されちゃうよ」
「むぐぐぐぐ」2人は言葉もありません。

「だいたい鯨井部長って営業経験ないよ」
「えっ?」「マジですか?」
「うん。確かSE出身だよ。部下の手前、聞いたふうな話をしたんじゃないの? ま、ウチの創部にも反対していた人たちだしね」

「だからって嘘言わなくてもいいじゃないですか」猫柳くんはもう涙ぐんでます。
「嘘をつくつもりじゃないんだろうけどね。とにかく、早く中田課長に相談しなよ」
「あああっ! 課長は明日まで出張です」猫柳君が天を仰ぎました。

「そりゃ困ったなあ…。でも、その2人が言ったSE的な話でいけ、とういうのは本当かもね。僕はいつもその辺でお客さんの信頼を得ているような気がする。君たちもそれで行ったらどうだ。今回の提案範囲は?」
「派遣社員の就業管理、人事管理、給与管理といった人事系システムと財務システムです」と坊津君。

「じゃあ、僕の得意な範囲だから同行してあげようか」
「ちょっと待ってください。課長にああ言った手前、僕たちでなんとかしたいんです。課長も、営業はできるだけSEに頼るなっておっしゃっていますからね」と坊津君は力みます。
「あ、そういうのいいね。カッコイイよ」

 内藤主任はSE出身で冷たくも見えるんだけど、案外に熱いところがあるんだなあ、と猫柳君は思いました。

「ま、僕はもうSEじゃないから頼ってもらってもいいんだけど。気持ちは分かる。よし、自分たちでやってごらんよ。アドバイスはするよ」
「ありがとうございます。さっそく徹夜に備えて歯ブラシを買いに行きます」これはもう内藤主任の力を借りるしかない、と思った猫柳君でした。

「ちょっと待て。お前ら昨日も泊まりじゃないのか?」
「内藤主任も、バッチリ付き合ってもらいますよ。夜食のご希望があれば携帯に電話ください」と言い残し、猫柳君はさっさとコンビニに行ってしまいました。