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 帰ってきた「第三営業部」は今回で第13話。いよいよセカンドシーズンに突入する。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 受注実績が評価され、第三営業部は今年度下期に第三営業部は事業部に昇格しました。SEも加わり、製販一体でユーザー企業を直接開拓するプライム営業に臨みます。昇格者も出て、ますます気合が入る旧メンバーですが、SE部隊との間に微妙なあつれきが出始めているようです。さっそく、坊津君の怒号とも哀願ともつかない大声が聞こえてきました。

「なんで見積もってくれないんですか?」
「SEの稼働時間が取れないからです」
 坊津主任が必死に愛須第一開発課長のデスクで食い下がっています。

「いいですか、課長。見積もりがないとですね、提案ができません。提案ができないと受注ができないんです」
 右手に持った資料を振り回して声を上げる坊津君。
 ディスプレイから顔を上げず愛須課長は答えました。「そんなことは、あなたに言われなくても分かってます。坊津さん」
「じゃあですね……」

 初めて顔を上げたと思うと、課長は人差し指でめがねをキリッと上げて、「この話はここまで。いまから品質保証会議ですから」と言いながら立ち上がりました。
「では、失礼」
 立ち上がると仕立ての良いタイトスカートのダークスーツ。実際より背が高く見えるのは華奢な体格のせいでしょうか。ヒールの音とコロンの香りを残して、坊津君の前を通り過ぎていきました。

 その後姿を見送ってつぶやく坊津君。
「なんだよー。もう間に合わないよー。どうすりゃいいんだ? やっぱ、氷の課長ってマジだったんだ。でも、ここまで冷たいとは……」
 怒りを通り越して半泣きの坊津君の横で、鼻をヒクヒクさせる巨体の男がいました。
「うわ。竜一郎さん!」

 第二開発課の松本課長です。第三事業部は営業7名、開発が約20名ですが、松本姓が多いからか、呼びやすさからか、みんなはこの人を「竜一郎」とか「竜ちゃん」と呼びます。若手はその威嚇ある風貌と技術力に親しみと敬意をこめて「竜一郎さん」と呼んでいました。

「デカイのに、音もなく近寄ってこないでくださいよー。びっくりするじゃないっすか」
「いいコロン使ってるなあ。さっすが、愛須課長。お前知ってるか? アルマーニだぜ」
「知らないっすよ。」
「バカ、それくらい知らなきゃ営業としてイカンぞ」