全3638文字
PR

 「第三営業部」はセカンドシーズンも絶好調だ。かつて日経ソリューションビジネスに連載され、大好評を博した伝説の小説が日経クロステックでよみがえる。今回はその第16話。詐欺や裏切り、顧客のハラスメント、プロマネの失踪、そしてライバル企業の陰謀などIT業界の厳しい現実の中で奮闘するITベンダーの営業担当者の姿を描く。技術者にも参考になる「提案の極意」がここにある。

 第三営業部が事業部に昇格した後、猫柳君は新興のカーディーラーを開拓し、受注一歩手前のところまでこぎ着けました。しかし突然、その企業の社長が会ってくれなくなりました。新任の根積課長に同行してもらった直後の出来事です。強引に社長室に入り込んだ猫柳君を待っていたものは……。一方、姿を消した協力会社を追う桜井君とリエピーにも新たな展開があったようです。

『あー。まいったなあ。本当にまいったなあ。どうしたらいいんだろう。破れかぶれもほどほどにしないと、こういう事態になるんだよなあ』
 ここはブルドッグ自動車の社長室。木製の両開きのドアの片方を開けると、見慣れた派手な赤いじゅうたんが猫柳君を迎えました。入ったところには、8人が座れる大きな応接セット。その奥には、大きな両袖の木製の机があります。そこに古戸社長は座っていました。

 古戸社長は入室してきた猫柳君を全く無視して金色のデスクライトを手前に引き寄せ、台帳と伝票をにらめっこし、猛烈なスピードで電卓をたたいています。
「社長、古戸社長。猫柳です。さっきからお邪魔してます。なんとか言ってくださいよ」
 そう言ったのはこれで3回目。もうかれこれ30分も、ドアの横で立ち尽くしたままの猫柳君です。

「帰るわけにもいかないし。一生懸命仕事してるみたいだから、邪魔もできないし。第一、近づくの、怖いよう。どうすればいいんだろう」
 曇り空の冬の日はあっという間に暮れてしまい、窓の外はすっかり真っ暗です。雨が降り出しそうな気配がしてきました。じゅうたんばりとはいえ、猫柳君の足元はすっかり冷え切ってしまいました。

 それから2時間が経過し、真っ暗になった空から雨が降り出したころ、ブルドッグ自動車の社長室では、部屋の主が眼鏡を外し、台帳を閉じました。
 猫柳君はどう切り出していいか分かりませんでしたが、とりあえず「お疲れ様です」と言ってみました。

 ギョロリとにらみつけたあと、椅子からゆっくり立ち上がりながら古戸社長は言いました。
「まーだ、おったのか。君もしつこい男だな。よし分かった。そこに座れ」
 古戸社長はソファにゆっくりと回り込み、どっしりと腰をおろしてタバコに火をつけました。