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 新型コロナウイルス感染症対策として在宅勤務が浸透し、緊急事態宣言時は多くの人が外出を控えた。こうした人の動きの変化は、ITインフラ活用に大きな影響を与えている。多くの人の生活や仕事を支えているネットワークも例外ではない。ここでは新型コロナウイルスがネットワークに与えた影響を、トラフィックの観点から見ていく。

右肩上がりに伸びたインターネットトラフィック

 総務省は2020年7月31日に、日本のインターネットトラフィックの集計・試算結果を発表した。年2回、11月分と5月分を集計・試算して発表しており、今回発表したのは2020年5月分である。

 ここでは集計・試算結果の中から「インターネットサービスプロバイダー(ISP)から固定系ブロードバンドサービス契約者宅へ向かうダウンロードトラフィックと、逆方向に向かうアップロードトラフィック」「ISPから企業/データセンター/CDNキャッシュといった専用線などの契約者に向かうダウンロードトラフィックと、逆方向に向かうアップロードトラフィック」について紹介する。

 固定系ブロードバンドサービス契約者によるトラフィックは、集計に協力しているプロバイダー9社(インターネットイニシアティブ、NTTコミュニケーションズ、NTTぷらら、オプテージ、KDDI、ジュピターテレコム、ソフトバンク、ニフティ、ビッグローブ)で測定したトラフィックと、固定系ブロードバンド契約数に対して上記9社の契約数が占める割合の推定値(66.1%)から試算したものである。

 試算の結果、固定系ブロードバンドサービス契約者による総ダウンロードトラフィックは推定で約19Tビット/秒で、前年同月比57.4%増となった。これまで年間20%増程度で推移してきたので急増と言ってよい。右端がぐっと伸びたグラフが象徴している。値が小さいためグラフ上は目立たないが、総アップロードトラフィックも推定で前年同期比48.5%増となる約2.3Tビット/秒に増えている。

日本の固定系ブロードバンド契約者の総トラフィック。2020年5月分の集計結果。総務省が7月31日に発表した「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算 2020年5月の集計結果の公表」の資料を引用した
日本の固定系ブロードバンド契約者の総トラフィック。2020年5月分の集計結果。総務省が7月31日に発表した「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算 2020年5月の集計結果の公表」の資料を引用した
(出所:総務省)
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 固定系ブロードバンド1契約、1カ月当たりのダウンロード量に換算すると、ダウンロードが推定で約151Gバイト(前年同期比54%増)、アップロードが同約18Gバイト(同45%増)だった。こちらも右肩上がりで増えている。

 集計に協力しているISPについては、契約者によるトラフィックの時間帯別の変化も集計した。その結果、1日のうちピークとなる時間帯が前回集計時までと比べて早まる傾向が見られたという。また、新型コロナウイルス感染拡大防止のため在宅時間が増えたことなどにより、特に平日日中のトラフィックが増えるといった特異的な傾向が確認されたとしている。

固定系ブロードバンド契約者の時間帯別トラフィックの変化。左がダウンロード、右がアップロード。2020年5月集計分を過去5年分と比較した。「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算 2020年5月の集計結果の公表」の資料を引用した
固定系ブロードバンド契約者の時間帯別トラフィックの変化。左がダウンロード、右がアップロード。2020年5月集計分を過去5年分と比較した。「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算 2020年5月の集計結果の公表」の資料を引用した
(出所:総務省)
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 専用線などの契約者に向かうトラフィックは、協力ISP5社と企業/データセンター/CDNキャッシュなどとの間に流れるものを集計しており、個別の傾向は分からない。ただ全体で見るとやはり急増している。ダウンロードトラフィックが前年同期比37.5%増の約3Tビット/秒、アップロードトラフィックは同155%増の約2.4Tビット/秒だった。

 総務省は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため在宅時間が増加したことなどで、インターネットトラフィックが大幅に増加したと指摘している。

様々な事業者のデータを総合しても平日日中を中心に増加

 もう1つ、測定地点と測定期間が異なるトラフィックデータがあるので紹介する。「インターネットトラヒック流通効率化検討協議会(CONECT)」が公開しているデータだ。

 CONECTは、インターネットトラフィックの流通に携わる民間事業者が情報共有や課題検討をしている協議会である。通信事業者、プロバイダー、IX、コンテンツ事業者、コンテンツ配信事業者、データセンター事業者、教育機関など34社(者)が参加している。

 参加各社の新型コロナウイルスの影響を受けている期間のインターネットトラフィックのおおむねの状況をまとめている。数値は2020年2月下旬に対する増加の割合を示している。

CONECT参加各社のインターネットトラフィックの状況。2020年2月下旬に対する増加の割合で示している。総務省Webサイトの「インターネットトラヒック流通効率化検討協議会」ページから引用した
CONECT参加各社のインターネットトラフィックの状況。2020年2月下旬に対する増加の割合で示している。総務省Webサイトの「インターネットトラヒック流通効率化検討協議会」ページから引用した
(出所:インターネットトラヒック流通効率化検討協議会)
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 平日の日中、休日の日中、そしてピークとなる平日および休日の夜間帯で分けてみると、目立っていたのは平日の日中帯だった。緊急事態宣言が出ていた5月中旬に3~7割程度増加したのが目立ち、7月中旬も1~3割程度増加しているという。

 CONECTも、在宅勤務の伸びに伴ってインターネットトラフィックは増加傾向にあると説明している。では在宅時にどのようなネットの使い方をしたことで、トラフィックはかくも急激な伸びを示したのか。以下ではこの点を考えていく。