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事例3 超柔軟

企業名:ブリヂストン
原材料:共役ジエン、オレフィン

 ブリヂストンが開発した新材料「SUSYM(サシム)」。その特徴は合成ゴムの成分とプラスチックの成分を分子レベルで結合させ、両者の特徴を併せ持たせたことだ。具体的には、ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエン*1と、プラスチックスのエチレンやプロピレンなどのオレフィン*2を共重合させる。同社は「両者を共重合させた世界初の材料」と胸を張る。

図1 サシムの耐突き刺し性の高さ
図1 サシムの耐突き刺し性の高さ
サシムはゴムの伸びとプラスチックの強さを併せ持ち、くぎを押し付けて局所的に力を加えても穴が開きにくい。(出所:ブリヂストン)
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*1 共役ジエン
炭素原子と炭素原子の間(C-C間)2重結合を2つ持つ炭化水素(ジエン)のうち、1つの単結合で2重結合が隔てられたもの。
*2 オレフィン
炭素原子と炭素原子の間(C-C間)の2重結合を1つ持つ炭化水素。アルケンとも呼ばれる。

穴が開かず、開いても治る

 サシムが示す物性は独特だ。例えば、穴が開きにくいという「耐突き刺し性の高さ」。通常のゴムは先端が鋭利なくぎを押し付けるとすぐに穴が開いてしまう。サシムは局所的に力を加えても、プラスチックの特性で破断に堪え、ゴムの特性で大きく変形してなかなか穴が開かない(図1)。まさにゴムとプラスチックを複合したサシムならでは特性だ。

 これ以外にも、従来のゴムにはない特性をプラスチックとの融合によって実現している。その1つが、穴が開いたり傷が付いたりしても、熱を加えるだけで塞がって修復できる再生・修復性だ(図2)。一定の温度に達すると溶けて融着する熱可塑性は、プラスチックに由来する特性の1つ。液体窒素で凍らせるような低温環境下でも、硬く脆くならない低温耐衝撃性の高さも従来のゴムにはない性質だ。

図2 サシムの修復性の高さ
図2 サシムの修復性の高さ
サシムは熱可塑性を持つため、穴が開いてても(a)、熱を加えれば溶けて穴が塞がる(b)。(出所:ブリヂストン)
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 こうした特性は、タイヤに限らない新しい用途への可能性を感じさせる。実は、サシムは材料の組み合わせ方や製造条件で特性をいろいろ変えられる。熱を加えると傷を修復できたりする特性はサシムの特性バリエーションの1つだ。含有するプラスチック分子の長さの調節によって、融着温度も任意に調整できるという。

最大の魅力は「技術者に夢を見させる力」

 つまり、個別の特性それぞれもさることながら、最大の魅力は「技術者に夢を見させる力」だろう。ブリヂストンは2019年の東京モーターショーでは、サシムにカーボンブラックを混合して造った「穴が開かないタイヤ」を披露した(図3)。その際、さまざまな企業の技術者がやってきてはサシムのタイヤ以外への活用法を提案してきた。

図3 サシムのコンセプトタイヤ
図3 サシムのコンセプトタイヤ
2019年10月に開催された「東京モーターショー」で展示したサシム製のコンセプトタイヤ。くぎを押し付けても刺さらない。ホイールとタイヤが一体化しており、タイヤに当たる赤い部分は簡単に曲げられるが、ホイールに当たる白い部分は力を入れても容易に曲げられない。(出所:ブリヂストン)
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 例えば「フィルム状に成形したサシムを貼って、製品の透明な部分の強度を高められないか」、あるいは「破損してもすぐに修復できる自動車のボディや内装に使えないか」といった提案だ。いずれもブリヂストン自体が当初は考えもしていなかった用途だ。従来にない特性を持つサシムの可能性に多くの技術者が気付き、さまざまな用途を思い描かせたのだ。

 こうした反響を受け、ブリヂストンもサシムの可能性に期待し始めた。同社先端技術担当フェローの会田昭二郎氏は、「さまざまな特性のサシムが造れる。その可能性は無限に広がっている」と話す。