全2340文字
PR
事例8 超分岐

企業名:パナソニック
原材料:セルロース繊維、ポリプロピレンなどのポリマー

 パナソニックはクリーナー(掃除機)やタンブラー(コップ)へ、セルロース繊維で強化したプラスチックの応用を始めている(図1)。セルロースナノファイバー(CNF)のようにnm(ナノメートル)級に細かくするのではなく、繊維の中心部の太さはμm級ながら両端がnm級に細かく枝分かれした形状にするのが特徴だ。元のプラスチックより強度を向上できると同時に、木材の廃材やコーヒーかすなどを有効利用可能であり、「サーキュラーエコノミーに対応した材料」とパナソニックは位置付けている。

[画像のクリックで拡大表示]
図1 セルロース繊維強化プラスチックの成形品
[画像のクリックで拡大表示]
図1 セルロース繊維強化プラスチックの成形品
2018年にパナソニックが発売したコードレス掃除機の持ち手部分の部品(a)と、「エコプロ2019」(2019年12月5~7日、東京ビッグサイト)に出展した木質調のタンブラー(b)。(出所:日経ものづくり)

衝撃を受け止めて亀裂を広げない

 同社は2018年8月に発売したコードレス掃除機「MC-SBU820J」「MC-BJ980」の持ち手部分にセルロース繊維強化プラスチックを初めて使用した〔図1(a)〕。「持ち上げて使う製品であるため軽量化する必要があったのと、倒れたときに生じる衝撃を受け止める必要があったため」(同社)。2019年にはセルロース繊維の含有率を55%に高めた材料を開発、これを利用した木質調のタンブラー「森のタンブラー」の試験的な販売をアサヒビールとともに始めた〔図1(b)〕。タンブラーは2020年度中に供給体制を大幅に強化する。

 これらの材料に含まれるセルロースは、木材などのセルロースを解繊したものである点はCNFと同じだが、nm級まで細くはないため、同社は「ナノ」を省いて「セルロースファイバー」と呼んでいる。ただしCNFと単に太さが異なるのではなく、中央部(非解繊部)の径はμm級であるものの、両端部(解繊部)は枝分かれしていてnm級の径の“ひげ根"のようになっている(図2)。

* CNFは補強用以外に増粘剤など多様な使い方が提案されているが、パナソニックのセルロース繊維はほぼ「補強専用」(パナソニック)という。
図2 パナソニックによるセルロース繊維の形態
図2 パナソニックによるセルロース繊維の形態
中央部(非解繊部)が太く、両端部(解繊部)が枝分かれして細くなっている。(パナソニックの資料を基に日経ものづくりが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 非解繊部と解繊部はそれぞれ耐衝撃性を高める上での役割がある。非解繊部は、ポリプロピレン(PP)などの母材プラスチックに入った亀裂の拡大を阻止し、面衝撃強度を保つ。面衝撃強度は板状に成形した試料に金属球を落下させる試験で測定する。