
企業名:三栄興業
原材料:ポリプロピレン、アクリル酸t-ブチル
自動車のバンパーやコップなどの日用品、DVDのケースなど身近な製品で多用されている汎用プラスチックの1つポリプロピレン(PP)。比重が小さくて強度が高く、加工性も良いのだが、「接着性が低い」「塗装しにくい」という弱点がある。
そんな弱点を補い、PPを異素材と接着しやすく、塗装しやすくするポリプロピレンアイオノマー*1を、三栄興業(千葉県柏市)が開発した(図1)。同社は、接着性を高める酸ブロック(酸の塊)をPP分子の末端に合成できるように反応性を高めた「両末端二重結合PP」を使い、接着性や塗装性の改善を実現している。
疎水性高分子に少量のイオン基を導入したもの。
接着作用のある酸を分子から分岐
PPの接着性や塗装性が低いのは、疎水性である。他のプラスチックなどとの「相溶性」が低い。接着の対象となる素材が溶け、自らも溶けて混ざる。この現象が起きにくい。
従来もPPの接着性を高める方法はあった。過酸化物を触媒にしてPPとマレイン酸を重合させた「マレイン酸変性PP」の活用だ。マレイン酸変性PPを塗布するとPPの接着・塗装性が高まる。例えば、自動車のPP製バンパーにマレイン酸変性PPをプライマー(下地材)として塗布すると、その上に付加した塗料が剥がれにくくなる。PPと炭素繊維の複合材(炭素繊維強化樹脂)でも、PPに混ぜる改質剤としてマレイン酸変性PPを使う例がある。
三栄興業研究開発室チーフの佐々木大輔氏によると、「現時点ではPPの接着剤や添加剤として市販されているのはほとんどがマレイン酸変性PP」という。
ところがマレイン酸変性PPには「接着性を高めづらい」(同氏)という弱点があるという。接着性を高めようとすると強度が落ちる。マレイン酸変性PPの製造過程でPPとマレイン酸を重合する際、マレイン酸がPPの分子鎖の内部に入り、PPの分子構造を壊して低融点化と低強度化を引き起こすからだ。また結晶性が低下し、基材のPPと一体化しにくくなる。そのためマレイン酸の配分を増やすには限界があり、接着性を高められなかった。
これに対して三栄興業が開発した「酸ブロックをPPの分子に付けた構造のPPアイオノマー」は、酸がPPの分子鎖に入らないように合成できる。こうすれば、マレイン酸変性PP とは異なり、PPの強度を落とさずに酸ブロックを増やせる、つまり接着性を高められる。
同社のPPアイオノマーは次のような製法で造る。まず、PPを独自の手法で熱分解して、PP分子の両末端に炭素の「二重結合」を形成する(図2)。これが、冒頭で述べた「両末端二重結合PP」だ。二重結合は反応しやすいので酸がくっつきやすい。この二重結合部分を形成したPPと、銅触媒を使ってアクリル酸t-ブチルを合成させると、二重結合部分に酸ブロックが付く。酸ブロックはPPの分子鎖に入らないので、接着性を高めるため合成するアクリル酸t-ブチルを増やしてもPPの強度は落ちない。言い換えると、PPの強度を落とさずに酸ブロックを増やして接着性を高められる(図3)。