
企業名:三井化学、バイバイワールド
原材料:ウレタン系ゲル材料
人がパチパチ拍手するときの音をロボットで再現する――。その目的達成のためだけに新しいエラストラマー材料を開発したのは三井化学だ。開発パートナーはエンターテインメントロボット「ビッグクラッピー」などを手掛けるスタートアップのバイバイワールド(東京・品川)。単に人間の手と同じ硬さを再現するだけでは足りず、音響テストを基に素材の分子構造から試行錯誤して新たなウレタン系ゲル素材のエラストラマー材料を開発した。バイバイワールドは同材料をハンドに採用した最新版「ビッグクラッピー 2020」の販売を2020年6月30日から始めている。
形状と大きさは変えずに音をリアルに
ビッグクラッピーは集客したり場を盛り上げたりするロボット。そのカギになるのが頭上に設置したハンドが鳴らす拍手と呼び込みの音声だ。2018年に発売された初期モデルでもウレタン系のエラストマーでハンドを成形していたが、今回「より一層リアルな拍手」(バイバイワールド代表取締役髙橋征資氏)を目指して、三井化学と共同で新素材の開発に取り組んだ。ただし、ハンドとしての形や大きさは初期モデルから変えられない。材料の変更だけでリアルな拍手にどこまで近づけられるか、という挑戦となった。
そもそも目指す「リアルな拍手」とは具体的にどのような音なのか。従来のハンドは人間のリアルな拍手に比べると、「ボソボソという印象」(三井化学ロボット材料事業開発室長の田和努氏)があった。その理由は、音の周波数とその時間的変化を比較する音響評価で明らかになった。
分析の結果、人間の拍手は低い周波数から高い周波数まで均一で、かつ保持時間が短い「キレのある音」(三井化学)。これに比べると既存のハンドが鳴らす音は周波数が低く保持時間が長い。素材の改良でこのような音響特性を再現できれば、リアルな拍手に近づくはずと分かった。
硬さを同じにするだけでは駄目
では、このような音を出すためには、ウレタン系ゲル材料の特性をどう調整すればよいのか。三井化学によると「単に人間の手と同じ硬さにするだけでは駄目だった」という。
ウレタン系ゲル材料の設計に当たって制御の対象となる物性は、主に[1]硬度、[2]粘性、[3]弾性の3つである。一般に[1]と[2]は反比例の関係にあり、[2]と[3]はトレードオフの関係にある。つまり、硬度を下げると粘性が上がり、弾性が弱まる。
そのため実際のウレタン系ゲル材料の開発では、例えば低反発のマットレスや枕などに使われる素材は粘性を高める、シート材などでは弾性を高めるといったように、まずどちらを強く出すかを決めて[1]とのバランスを探るというのが、開発の常道だ。