世界の自動車産業はここ2年で劇的に変化した。その動きを規制動向と規制への対応状況、電動化の拡大、エネルギー動向の観点で分析すると、次のようにまとめることができる。
[1]電動車の「現実解」はハイブリッド車(HEV)である。電池性能を含めて依然として多くの課題がある電気自動車(EV)の拡大は難しい。
[2]エンジン車とHEV、プラグインHEVに搭載するエンジンは脱化石燃料に転換し、エンジン車を存続させる。これにより、新興国を含めた多くの人が購入できる価格の実現と二酸化炭素(CO2)の削減の両立を図ることができる。
世間にはさまざまな報道があるが、冷静に見ると世界の自動車産業はこれまで筆者が唱えてきたシナリオ(第1回の図1)の信頼性を裏付ける方向に進んでいる。以下、詳細について解説しよう。
第2回:HEVに現実を見た中国、判断ミスで自縄自縛の欧州
第3回:EVの優位性はさらに薄れる、脱化石燃料とLCAの推進
第4回:次世代車はこう造り分ける 持続可能性がメーカーの存続条件
全く強化になっていない各国・地域のCO2基準値
CO2削減率(年)に関して、先進各国・地域の2021年~30年の基準値が出そろってきた。ところが、それらはわずか5%前後。2015年~21年の5%前後とほぼ同等であり、全く強化されていない。パリ協定(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議;COP21)の目標達成(2℃以下)を意識した新車削減率(年)である12~13%にも遠く及ばない。
一方で、先進各国の政府は2030~40年に電動車構成比を100%(エンジン車はゼロ%。英国はHEVも除外)にすると、あたかもパリ協定を意識したかのような野心的なシナリオを表明している。だが、基準値とのギャップがあまりにも大き過ぎて、実効性に欠ける。まさに「絵に描いた餅」と言わざるをえない。日本を例にとると、国土交通省と経済産業省が、基準値とシナリオに関して全く調整していないという、まさに縦割り行政の弊害が出ている。
CO2基準値は自動車メーカーが可能な範囲を想定して決められている。その基準値が今後見直されるとは思えない。従って、各国・地域の自動車メーカーには、生き残りを懸けて先のシナリオ(年率12~13%削減)に近い開発の推進を期待したい。
併せて、日本をはじめ各国の政府には、せめてCO2削減を後押しする補助金と優遇税制へと見直しを進めてほしい。ZEV(無公害車)に対応するEVや燃料電池車(FCV)などで一律に手厚くするのではなく、Well to Wheel (WtW)*1でのCO2やLCA*2でのCO2と、段階的にレベルに応じて補助金や優遇税制を決めれば、地域のエネルギー事情に応じて実効性のあるCO2削減が可能になるはずだ。
*1 WtW 油田からタイヤを駆動するまでのCO2排出量。
*2 LCA 自動車のライフサイクル全体でみたCO2排出量。
進まない欧米メーカーの電動車展開
図1は、2018年における世界の主要な自動車メーカーのエンジン車と電動車の構成比を示したものである。彼らは2025~30年の間にほぼ25~50%を電動車とし、残りをエンジン車とすると表明している。だが、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン;VW)と米General Motors(ゼネラル・モーターズ;GM)のEVおよびPHEVの比率は、2018年で共にわずか0.4%。2019年においても1%以下と非常に低調だ。
中でもVWは、同グループ最高経営責任者(CEO)のヘルベルト・ディース氏(VW乗用車ブランドのCEOは2020年7月に退任)の下で、2025年に25%をEVとする目標を掲げて世間の注目を集めた。だが、技術的な課題が山積している上、製造ライン構成の見直しや人員削減など生産面での対応にまで苦慮している。25%という目標の実現は非常に厳しいと予想される。
一方、HEVを得意とする日本メーカーは、HEVとPHEVの比率がトヨタ自動車が15.4%、ホンダが7%と欧米メーカーと比べて相当高い。しかも、トヨタ自動車は2019年にはこれをさらに3ポイント上積みした。今後は日産自動車も含めて日本メーカーの電動車比率はさらに高まるはずだ。