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 14回目を迎えたIT Japan Award、特別賞はエルピクセル、東京都、日本生命保険が受賞した。エルピクセルはAIを使った医療用画像解析ソフトウエアを製品化した。東京都は新型コロナウイルス対策サイトを1週間で開発。日本生命は経営トップが主導しDXに取り組む。

エルピクセル

深層学習を使って画像解析、医療機器として初の承認

 「命に関わる脳動脈瘤(りゅう)の早期検出に役立つソフトウエアを開発し、医師の読影結果を上回る成果を出した。大きな社会貢献であり、今後のベンチャー企業のモデルを示すものだ」(審査委員の伊藤重隆 情報システム学会名誉会長)。

エルピクセルの島原佑基社長(左)と、「EIRL aneurysm」で脳MRI画像を解析した例。脳動脈瘤(りゅう)の疑いのある検出部位には円形マークが重なる
エルピクセルの島原佑基社長(左)と、「EIRL aneurysm」で脳MRI画像を解析した例。脳動脈瘤(りゅう)の疑いのある検出部位には円形マークが重なる
(画像出所:エルピクセル)
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 特別賞のエルピクセルは、東京大学の研究室から生まれたAIベンチャーだ。2019年10月に発売した「EIRL aneurysm(エイル アニュリズム)」は、深層学習を使った医用画像解析ソフトウエアで、脳MRIの画像から脳動脈瘤の疑いがある部分を検出して医師を支援する。医療機器の承認審査を担う医薬品医療機器総合機構によれば、深層学習を使ったプログラム医療機器としては国内初の承認事例という。

 脳動脈瘤は破裂するリスクがある。医師はMRI画像を見て、動脈瘤の可能性がある部分を目視で探す「読影」で診断する。脳をスライスしたMRI画像は患者1人当たり200枚前後に及ぶ。EIRL aneurysmにMRI画像を読み込ませると2ミリメートル以上の動脈瘤を検出する。最終的な診断は医師が決めるが、大量の画像を読影する負荷を下げたり、バイアスによる見逃しを防いだりする効果が見込める。

 申請時の性能検証で威力を証明した。疾患を正しく判断できた割合を示す「感度」は、医師単独の読影で68.2%だった。EIRL aneurysmの支援を受けた場合は77.2%に向上した。

効果効能を示し3年がかりで承認

 EIRL aneurysmの特徴はアルゴリズムに深層学習を採用した点だ。AIの中でも深層学習は出力結果の判断に至る過程がブラックボックスであり、判断根拠を明確に示すことが一般的に困難とされる。ブラックボックスの要素が残る深層学習を用いながら、どのようにして承認を得たのか。実際に「中身がブラックボックスではないのか」という指摘も受けたという。

 「承認が下りるまで1000日ほどかかった」と島原佑基社長は明かす。「注目すべきは効果効能。薬も人間というブラックボックスを全て解明した上で承認を得ている訳ではない。深層学習を使っていても病変の検出率が向上するという効果効能を理論的に証明できることが重要だった」(島原社長)。

 画像データの集め方や性能テストの条件、臨床上のガイドラインや海外での承認例などあらゆる情報から理論を組み立てた。十分な性能とそれを裏付ける材料をそろえ、3年がかりで承認までこぎ着けた。

東京都

爆速で感染対策サイト構築、自治体DXのモデルに

 新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ戦いが続く東京都。対策情報をまとめたWebサイトがオープンと同時に注目を集めた。「行政らしくない」出来栄えのサイトはわずか1週間の開発期間で誕生した。背景には的確なデータ整備やアジャイルな開発体制がある。東京都は全庁を挙げてDXを推進しており、サイトはその象徴的存在だ。

東京都の宮坂学副知事(右)と、わずか1週間で開発した東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」
東京都の宮坂学副知事(右)と、わずか1週間で開発した東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」
(背景写真出所:Getty Images、画像出所:東京都)
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 検査陽性者の状況や検査実施状況、陽性患者の属性、陽性患者数など様々な情報を、図や表をふんだんに使って分かりやすく表示する。各種のオープンデータのダウンロードも可能だ。情報を匿名化した上で、2次利用しやすく加工して無償公開している。日本語に加えて英語やハングル、中国語の簡体字や繁体字などでも閲覧できる。

 この「新型コロナウイルス感染症対策サイト」に特別賞が贈られた。「1週間というスピードで開発できたのは、行政データのオープン化などのIT施策を着実に進めていた下地があったから。地方自治体が主導するDXの好例と言える」(審査委員の浅川直輝 日経コンピュータ編集長)。

GitHubでソースコードを公開

 特に話題を集めたのがソースコード共有サイトGitHubでソースコードを公開し、他の行政機関や開発者などが同様のサイトを作れるようにしている点。ソースコードをオープンにするのは行政機関のサイトとしては異例だ。