徳島県上勝町に2020年5月、オープンしたごみの分別回収所を中心とする複合施設だ。NAP建築設計事務所代表の中村拓志氏は、構造設計者の山田憲明氏との協働で、特徴的なプランとともに丸太を無駄なく使う方法を考え出した。
徳島県上勝町は2003年、ごみゼロを目指し、自治体として日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った。生ごみは各家庭で堆肥化、他は徹底した分別回収により、ごみの再利用や再資源化に町を挙げて取り組む。
町は宣言時、すでにごみの34分別を行っていた。16年以降は45分別と、さらに細分化。町民は各家庭でごみを分別してごみステーションに運び、まだ使えるものは併設のリユースショップに持ち込む。こうした日常生活により、町全体ではリサイクル率80%を達成している。
「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」は、そのごみステーションを利用しやすく一新するだけではなく、町民の交流や憩いの場を加え、さらに、ゼロ・ウェイストの理念を広める拠点として整備された。設計を手掛けたのは、NAP建築設計事務所(東京・港、中村拓志代表)だ。
作業効率を優先した形
建物は、ごみの分別・保管・再生を行うゼロ・ウェイスト棟と、視察者や観光客のためのホテル棟から成る。どちらも木造だ。疑問符「?」を描く平面形は、町民が効率的にごみを出せることや利便性を考えた結果、生まれた。
ゼロ・ウェイスト棟は馬てい形の平面部分に、ごみの分別・保管・再生を行う場所を順に連ねている。同時に、ごみを出すという町民のプライバシーを視察者がいても守れるように、町民の動線は馬てい形の内側、視察者は外側に分けた。町民は車をごみステーションの前に止め、家から運んできたごみを出し、終わったら車で広場をぐるりと回って帰れる。
ゼロ・ウェイスト棟は、丸太を太鼓落としにしたものと半割りにしたものを構造材に使用。馬てい形の内側の柱は深い軒を支えつつ、徐々に脚の位置がずれていく。中村氏が構造設計者の山田憲明氏(山田憲明構造設計事務所代表、東京・品川)との協働で生み出した架構だ。
中村氏は設計行為もゼロ・ウェイストの観点から見直したいと考え、ごみの発生を抑えるために、上勝産のスギを丸太に近い状態で構造に用いた。