「複数の省庁に分かれる関連政策を取りまとめて強力に進める体制として、デジタル庁を新設いたします」。菅義偉首相は2020年9⽉16⽇、就任後初の記者会⾒でこう明⾔した。さらに新たに設けたポストであるデジタル改革大臣に平井卓也元IT担当大臣を充てた。
デジタル庁を巡っては、2021年秋までに新設され、そのトップには民間人が起用されるとの観測もある。デジタル庁の新設に当たり、焦点は3つあるだろう。「IT調達予算の一元化」「政府内外から必要なIT人材を登用できる人事権限」「システム開発の内製化」――である。
政府IT調達7000億円超、既に1割を「一元化」
1つ目の焦点であるIT調達予算の一元化は、政府が2020年度予算から既に始めている。背景には、国の行政手続きを原則電子化すると定めた「デジタルファースト法(デジタル手続き法)」と、同法に基づき2024年度中に9割を電子化するための工程表である「デジタル・ガバメント実行計画」がある。
デジタルファースト法は付則に、これまで各府省庁が個別に要求していたITの調達予算を、内閣官房に一元化する規定を盛り込んでいる。政府関係者によると、閣僚として予算の一元化が必要だと主張したのは当時IT担当大臣を務めていた平井大臣だった。
デジタルファースト法成立への転機となったのは2018年12月。内閣官房の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)で安倍晋三前首相が「IT調達・予算の一元化などについて早急に検討を開始する」と指示した。
それを基に当時の菅官房長官が平井大臣に具体案の作成を求め、政府全体を動かしたという。安倍前首相の指示から約半年後の2019年5月にデジタルファースト法が成立。さらにその約半年後の2019年12月にデジタル・ガバメント実行計画が閣議決定された。
デジタル・ガバメント実行計画では、内閣情報通信政策監(政府CIO:最高情報責任者)の下で全ての情報システムを対象に、予算要求前から執行の各段階で一元的なプロジェクト管理をすると規定した。政府CIOの下で内閣官房が一元的なプロジェクト管理をするとともに、各府省などの予算要求を査定する財務省主計局や、業務改革(BPR)を担う総務省行政管理局と密接に連携して、プロジェクト管理が適正に実施される体制を整備するとした。
政府CIOとは政府が登用した民間人材で、政府全体のIT政策の司令塔を務める。その地位は内閣官房副長官に次ぐ。各府省の政務官と並ぶもので、事務次官よりも上位に位置するとされる。
また政府CIOはIT総合戦略本部に国務大臣と同等の立場で参加し、政府横断の計画や経費の見積もり方針といったIT総合戦略本部から委任された事務について、総理大臣に意見や報告できる。現在の政府CIOは2018年に任命された大林組出身の三輪昭尚氏だ。
調達予算の一元化を始めた2020年度予算では、内閣官房が人事・給与情報システムといった府省共通システムについて、34件約674億円を一括計上した。政府のIT予算は特別会計も含めると毎年7000億円を超えるので調達予算の一元化の対象になったのは約1割に満たないものの、今後政府は対象を広げる方針だ。
2021年度予算案が菅首相と平井デジタル改革大臣の下で編成されれば、IT調達予算の一元化が拡大しそうだ。