例年ならもっと盛り上がっていたのだろうなあ、という思いで2020年9月16日に開催された米Apple(アップル)のオンラインイベントを見終えた。真打ちである新型iPhoneの発表がなかったのだから致し方ない。2019年、iPhone 11をパスしただけに期待はいやが応でも膨らんでいた。家族がiPhone 11で撮影した広角写真を見るたびに、垂涎(すいぜん)のまなざしを送りながら1年を過ごしてきたのだが、あと少しの我慢だ。各メディアが報ずるiPhone 12のリーク記事や噂を肴(さかな)にビールを飲んで待つとしよう。
今回の発表内容に目をやると、ホームボタンなしの第4世代iPad Airは良かった。久しぶりにiPadをほしいと思った。筆者は第1世代のiPad Proを購入して以来、不満なく使い続けている。ホームボタンなしの第3世代iPad Proの格好よさに食指が動いたものの高いので購入はやめた。新型iPad Airなら手ごろな価格だ。今回は少し寂しい発表内容だったわけだし、2010年に初代iPadが登場してから10年以上が経過したこともあり、iPadにまつわる昔話を語ってみたい。
米国のApp Storeで総合16位になった筆者のiPadアプリ
2010年3月下旬の深夜、筆者は数時間後に控えた米国でのiPad版App Storeのオープンに自身のアプリを間に合わせるべく、必死の形相でXcodeの画面に対峙していた。2009年にリリースした筆者プロデュースのiPhone用ハモンドオルガンアプリ「Pocket Organ C3B3」の販売が好調だったことから、同アプリのiPad版を、iPad向けApp Storeの初日に間に合わせるべく、必死になって対応作業を進めていたのだ。
初日のリリースが可能なタイムリミットがあと少しと迫ったタイミングで、ビルド中に原因不明のエラーが出まくってアタフタしていた。幸い原因を突き止めることができ無事に審査に提出した。iPad向けApp Storeの初日にリリースを成就したおかげで米国ストアの総合16位まで上り詰めた。その後、アプリ開発者の多くが、OSバージョンアップに合わせた新機能解禁日に向けて自分のアプリをリリースすべく必死になる姿を見て、ほほ笑ましく感じたものだ。
初代iPadは日本での発売が後回しになった。そこで、米国への旅行者や出張者に頼んでiPadをいち早く手に入れ優越感に浸っているアップル信者が多かったことも懐かしい。「開封の儀」などでワイワイと盛り上がる様子をネット配信して、「技適警察」に突っ込まれていた。前述のPocket Organ C3B3がiPadで動作する様子を初めて見たのは友人のiPad上だった。元カシオペアのキーボード奏者である向谷実氏は、楽器としてのiPadの可能性をいち早く見いだし、メディアなどで積極的に模範演奏を披露していた。筆者のPocket Organ C3B3も気に入ってくれて、いろいろなイベントで紹介してくれた。
下記の動画をご覧いただくと分かるが、今になって思えば画面をタッチしてほぼ遅延なしに音が出るというのはすごいことだ。当時は比較対象がなかったので、当然のように考えていたのだが、その後、Android OSがマルチタッチに対応したことで、Android版の開発を模索してみた。ところがAndroidは画面をタッチしてから発音するまで100ミリ〜300ミリ秒程度の遅延が発生し、「楽器としては使い物にならないOS」であることが判明。そのことが逆に、iOSのすごさを再認識させてくれた。iOSは約20ミリ秒の遅延で発音する。
あるポッドキャスト番組に向谷実氏と共に出演した際の動画。自身のオルガン愛を熱く語りながらPocket Organ C3B3を楽々と弾いた。こんな小さな仮想鍵盤でも一瞬にしてモノにしてしまうプロの技術に驚いた