表情豊かなロボットが公道で荷物を運び、多忙な宿泊施設では食材を客に届ける。巨大な物流倉庫では、作業棚の運搬やピッキングをロボットが担い作業員を助ける。人とロボットの二人三脚による物流DXで、宅配クライシスとコロナ禍に立ち向かう。
「宅配需要の急増に対し、人手を介さない配送ニーズが高まる中、低速・小型の自動配送ロボットについて、遠隔監視・操作の公道走行実証を年内、可能な限り早期に実行します」。2020年5月14日、政府の未来投資会議で安倍晋三前首相はこう述べた。7月17日に閣議決定した政府の「成長戦略実行計画」にもこの方針が盛り込まれた。
「公道走行実証では技術面や法制度上の課題を探るとともに、ロボットが社会でどのくらい受け入れられるかを検証したい」と経済産業省の松田圭介物流企画室室長補佐は言う。
建物内にグランピング施設、ユースケース開拓へ実証相次ぐ
宅配ロボットを社会に受け入れてもらい普及させていく上でカギの1つとなるのが、ユースケースの開拓だ。例えば日本郵便は、オフィスや集合住宅の建物内で配送ロボットを使って郵便物を運ぶ屋内実証を進める。2020年3月には本社内でロボットが社内便を運ぶ実証実験を実施済みだ。2021年にはオートロック付きマンションなどでも実証実験を進め、荷物の受け渡し方法や、建物内を自動走行する際の課題などを洗い出す。
楽天も2020年中に小型・低速ロボットの遠隔監視型の自動走行実証実験を始める。同社は中国ネット通販2位の京東集団(JDドットコム)と2019年2月に協業した。ドローンやロボットを使う配送システムの構築やサービス実用化へ取り組みを進めている。
京東が開発し、中国で公道走行している自動走行ロボットを、楽天が日本で活用している。利用者は楽天が開発した専用アプリで注文する。
楽天が開発した自動走行ロボットのソリューションを活用したのが東急リゾーツ&ステイだ。同社が運営する長野県茅野市のグランピング施設で、2020年8月1日から自動走行ロボットを使った配送サービスを実施している。宿泊者がテント内の端末でバーベキュー用食材を注文すると、ロボットがテントへ食材を運ぶ。
以前は施設のスタッフが注文を受けるたびに各テントに運んでいたが、自動走行ロボットに任せることで配送を効率化させる。
「自動走行ロボットを使うことで楽天の物流サービスの効率化だけではなく、他社に配送ソリューションを提供することにもつなげたい」と楽天の牛嶋裕之ドローン・UGV事業部UGV事業課シニアマネージャーは話す。
政府は公道走行実証の結果を踏まえ、低速・小型の自動配送ロボットの社会実装に向けて、早期に制度設計の基本方針を決定する。「自動配送ロボットがどのように使われ、どんなサービスが生まれるかも踏まえたうえで制度設計することになる」と経産省の松田室長補佐は言う。