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作業員が棚へ行かず、棚が作業員へ寄ってくる

 配送のみならず物流倉庫内でも人とロボットの共生が一気に加速する。以前からの物流倉庫の人手不足に加え、新型コロナで急増したネット通販などの物流需要を、人とロボットの二人三脚で乗り切る。

 SGホールディングスは2020年1月、東京都江東区内の大型物流施設「Xフロンティア」を竣工した。同所に4500坪の次世代型電子商取引(EC)プラットフォームセンターを4月にオープンした。狙いは「ロボット導入によって生産性を高め、EC事業者に対する付加価値を高めること」(佐川グローバルロジスティクスの堀尾大樹東京支店EC Logi Tokyo所長)。

 EC用の物流倉庫は多くの種類の商品在庫を持ち、注文が入れば該当商品を倉庫内の棚からピッキングして梱包し出荷する。倉庫が広くなればスタッフが商品を探す時間も増え、歩行距離も長くなる課題がある。

 同センターは自動棚搬送ロボット「EVE」や自動倉庫、無人搬送機「OTTO」、自動梱包ロボットなどを備える。注文が入ってもスタッフは棚へ行かず、EVEが商品の入った棚ごとスタッフのいる作業台へ運び、スタッフがピッキング後に自動で戻す。処理量は人間が棚へ取りに行く場合の3~4倍になるという。

SGホールディングスが大型物流施設「Xフロンティア」で使う自動棚搬送ロボット「EVE」
SGホールディングスが大型物流施設「Xフロンティア」で使う自動棚搬送ロボット「EVE」
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 商品の在庫棚は発送頻度により複数のエリアに分類している。このうち週2~3回発送する中頻度品にEVEを、週1回以下の低頻度品に自動倉庫を使う。「毎日発送する商品はロボットより人間がピッキングする方が効率的」(堀尾所長)。EVEがピッキングした商品をOTTOが梱包エリアに運ぶ。

ファストリが認めた技術力

 「新型コロナで物流や小売りの関係者から新規の問い合わせが増加した。既存顧客からも投資計画を前倒ししたいとの話が来ている」。ロボット制御技術を開発するMUJINの海野義郎営業本部長は話す。

 MUJINは倉庫内での荷物の積み下ろしや積み上げ、バラバラに積まれた品物の山から一つひとつ積み出すピースピッキングなどを自動化するソリューションを提供している。

 MUJINの強みは「モーションプランニングAI」だ。従来の産業用ロボットは学習した動きを忠実に繰り返す。ピースピッキングなどの複雑な工程では分岐が膨大になり自動化が難しいとされてきた。MUJINでは物体の位置や輪郭、パッケージ情報などをカメラが認識し、最適な動き方をロボットが自ら計算して動く。同社のソフトウエアは安川電機やファナックなど主要8社の産業用ロボットと接続可能だ。

 ティーチングの必要がなく、ピースピッキングなど複雑な工程も自動化できるという。その特徴を生かし、人手によるピッキングや梱包をMUJINが一部肩代わりして従業員の過酷な作業を減らせる。倉庫内の作業員がロボット管理者に移った事例もあるという。

 MUJINの技術力を国内外の企業も認める。2019年11月にはファーストリテイリングと協業。形状が柔らかく商品点数が多い衣料品のピッキング作業用ロボットを共同開発した。ファストリは世界中の倉庫にこのロボットを導入し、倉庫の自動化を加速させる。

ファーストリテイリングの倉庫内に設置された、同社とMUJINが共同開発したロボット
ファーストリテイリングの倉庫内に設置された、同社とMUJINが共同開発したロボット
(写真提供:MUJIN)
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ロボットだけでは課題解決せず

 「新型コロナによる大きな変化は2つある。1つは物量の増加に伴い今いる人員を最大限活用しながら処理能力を増やしたいとのニーズが高まったこと。もう1つが置き配を認めるなど物流合理化のための新たな商習慣が生まれつつあることだ」。物流技術スタートアップ、GROUNDの宮田啓友社長CEO(最高経営責任者)はこう分析する。処理能力を上げ、さらなる合理化を図るためにロボットの活用が期待されている。

 ただし「ロボットの導入は人手不足の解消にはつながるが、それだけでは今、物流が抱える抜本的な課題解決にならない」と宮田社長はみる。ネット通販の普及で倉庫管理者の仕事は複雑かつ膨大になった。例えば、ネット通販の注文が急増した日は派遣会社に電話し「今から作業員を10人手配してほしい」と依頼したり、セール前に対象商品を取り出しやすいよう棚の前方へ配置換えしたりする必要がある。

 そうした課題を踏まえ、ロボットとともに人の働き方も最適化しようとするのが、GROUNDの人工知能(AI)を活用した物流支援ソフトウエア「DyAS(ディアス)」だ。POS(販売時点情報管理)データや在庫状況、天気予報などの情報を入力すると、DyASは数理モデルを駆使し、在庫量やスタッフ配置などの最適解を提供する。

 DyASは複数店舗の在庫状況やスタッフの労働状況などのデータを集約し可視化する機能もある。今後は走行データなどあらゆるデータをロボットから取得しながら、さらに可視化や最適化の精度を高める計画だ。

 新型コロナを契機に物流現場で急速に進むロボットの活用は、物流全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)の第一歩になりそうだ。