菅政権が重点政策に掲げる携帯料金の引き下げ。官邸と携帯大手の過去1000日に及ぶ激しい攻防を繰り広げたにもかかわらず、多くの国民が値下げの実感を得られない理由は何か。攻防の裏側に迫り、携帯電話市場の課題を浮き彫りにする。

知られざる携帯値下げ攻防
出典:書籍「官邸vs携帯大手 値下げを巡る1000日戦争」
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目次
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ドコモの病、黒船が来て初めて変わる体質
不思議に思うのが、年間最大4000億円という巨額な還元を実施するにもかかわらずNTTドコモの新料金プランが、KDDIやソフトバンクに対して競争力を出せなかった点である。4000億円は一体どこに還元されているのか。
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ドコモ新料金でも他社動かず、楽天待ち裏目か
NTTドコモの吉沢和弘社長は2019年4月15日、前年10月末に投入を表明していた新料金プランの詳細を発表した。新料金プランの開始は、当初の計画どおり改正法施行前の2019年6月1日とした。新料金プランのギガホとギガライトは、総務省が改正法施行で2019年10月から各社に求める「完全分離」を先取り…
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ドコモの決断、最大年4000億円還元 見切り発車余儀なく
NTTドコモの吉沢和弘社長は2018年10月末、中期経営計画に合わせて値下げする方針を正式に発表した。2〜4割値下げという具体的な水準を示すことで、菅義偉官房長官(当時、現首相)が2018年8月に「携帯大手の携帯料金は、4割程度引き下げる余地がある」と発言した内容に結果的に応えた形となった。吉沢社…
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月1000円値下げで年6000億円減、ドコモを縛る呪縛
「一律で月1000円値下げすると年間6000億円の減収」─―。NTTドコモ幹部の間で共有されている携帯電話事業のコスト感覚だ。前述の通り、IoT向けや格安スマホへの回線提供を除くと、同社の契約数は約5000万前後で頭打ちだ。月1000円の値下げをした場合、1人当たり年間1万2000円の減収。500…
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「こんなもんじゃねえだろ」 ドコモ最大4割値下げの苦悩
菅義偉首相が官房長官時代の2018年8月に「携帯大手の携帯料金は、4割程度引き下げる余地がある」と発言してから1カ月が経過した同年9月末、東京・千代田の「大手町ファーストスクエア」にあるNTT持ち株会社の役員会議室に怒号が響き渡った。会議室に居並ぶNTTドコモ吉沢和弘社長をはじめとしたNTTドコモ…
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楽天一本足打法の勝負、無料終了後に問われる真価
「なぜここに歯ブラシとコップが置いてあるのか」──。楽天の携帯電話部門で働く社員は2019年の冬、東京・世田谷の本社ビル「楽天クリムゾンハウス」のトイレで不思議に思った。実はこのトイレに置かれた歯ブラシとコップは三木谷浩史社長の持ち物だった。三木谷社長は時間を有効に活用するため、自身が頻繁に動くフ…
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素人集団が「常識」を軽視、楽天の甘さ
2019年10月まで3カ月を切った同年7月時点で、楽天は自らのつまずきを隠しきれなくなっていた。基地局整備の遅れが深刻化しつつあったからだ。同年7月時点で実際に電波を出している基地局はわずか100局程度にとどまっていた。
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完全仮想化に賭けた楽天、専用機器の呪縛逃れる
「本当にネットワークが立ち上がるのか」「6000億円の設備投資額で足りるのか」 ─。楽天の携帯電話事業への疑念が拭えないまま迎えた2018年初夏、「楽天が、インドで急成長した携帯電話事業者の幹部をヘッドハンティングした」というニュースが業界を駆け巡った。
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「常識外れ」な挑戦者、楽天の誤算
楽天の三木谷浩史会長兼社長は2020年3月3日、同年4月8日から本格提供を始める携帯電話サービスの料金を高らかに宣言した。楽天が明らかにした料金プランは、NTTドコモやKDDIなどの大容量プランと比べて半額以下となる破格値だった。
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不発に終わった「4割値下げ」 なぜ解けない3つの呪縛
携帯料金が高いという批判が後を絶たない。最大の批判の出所は、官邸の中枢である菅義偉首相の以下の発言だ。菅氏は内閣官房長官在籍当時の2018年8月、「携帯大手の携帯料金は、今よりも四割程度引き下げる余地がある」と発言した。