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 楽天が当初、予定していた携帯電話サービスの提供開始日は2019年10月だった。消費税率が8%から10%に上がる時であり、消費者が支出を抑えたいと考えるタイミングだ。低価格で攻勢に出る新規事業者にとって、絶好の参入タイミングといえた。

 官邸や総務省も2019年10月を境に、携帯電話市場のこれまでの課題を一掃しようと準備を進めていた。行き過ぎた端末割引競争からの脱却を狙い、電気通信事業法を改正し、端末代金と通信料金の「完全分離」を義務化した。その施行日としたのが2019年10月1日だった。携帯大手の囲い込みを防ぐために、2年契約の違約金を1000円以下とする省令も、施行日を10月1日とした。13年ぶりの第4の携帯電話事業者のサービス開始に向けて、官邸と行政の援護射撃が着々と進んでいた。

 迎え撃つ携帯大手も、楽天への対抗策を固めつつあった。NTTドコモは楽天参入に先立つ2019年6月、従来と比べて2〜4割値下げをうたった新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」を先行導入した。大手3社の幹部はいずれも「楽天の出方次第で、追加で値下げを考える」と語り、10月に値下げ競争が起こるかどうかは楽天の出方に委ねられていた。

楽天モバイルの基地局。当初、設置ノウハウが足らず整備の遅れが深刻化した
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楽天モバイルの基地局。当初、設置ノウハウが足らず整備の遅れが深刻化した
(写真:日経クロステック)

 だが2019年10月まで3カ月を切った同年7月時点で、楽天は自らのつまずきを隠しきれなくなっていた。基地局整備の遅れが深刻化しつつあったからだ。同年7月時点で実際に電波を出している基地局はわずか100局程度にとどまっていた。

 楽天は2020年3月末までに、東京や名古屋、大阪といった都市部に3432局の基地局を敷設する計画を立てていた。これは総務省に提出した計画であり、この計画を守ることが電波割り当ての絶対的な条件だった。

 だが基地局整備の遅れにより、正式サービス開始が危ぶまれる状況になっていた。「本格参入が遅れるかもしれない」─。楽天の担当者が総務省に内々に耳打ちしたのもこの頃という。事態を重く見た総務省は2019年8月、楽天の基地局整備が遅れているとして行政指導した。実は総務省は2019年3月と同7月にも口頭で楽天を指導していた。いずれも基地局整備計画の進捗が遅れていたという理由からだ。

 なぜ楽天の基地局整備は、ここまで遅れる状況となったのか。楽天の内情を知る関係者は「楽天は基地局整備の常識に欠けていた。素人集団だった」と語る。

 楽天は、汎用サーバー上にソフトウエアで基地局やコアネットワークの機能を実現し「ネットワークに革命を起こす」と意気込んだ。だが基地局の設置場所を確保し、アンテナを建てて、サーバーを設置した集約局との間をネットワークで結ぶという作業は、仮想化技術のメリットを生かせるわけではない。どうしても人手や物理的な作業を伴う。楽天は当初、この作業を甘く見ていた。

 基地局の設置場所の交渉は、携帯大手でも外部の専門業者に任せるケースが多い。だが楽天は自社の電子商取引担当者を動員して自前の交渉に動いた。

 ビルの屋上などにアンテナを設置して、基地局を動作させるには、無線制御を担うサーバーとアンテナを光回線で結ぶ必要がある。サーバーはNTT東西の局舎に設置し、アンテナと局舎を結ぶ光回線もNTT東西から借りる。NTT東西から借用する光回線は、通常3カ月程度かけて調達するのが一般的だ。しかし関係者によると楽天は当初、この作業をわずか1カ月程度で見積もっていたという。業界の常識をあまりに軽視したことが、楽天の基地局整備の遅れの原因だった。楽天の「常識外れ」の悪い面が出てしまった。

10月1日は、大山鳴動してネズミ一匹

 楽天幹部は「パススルーと呼ぶ問題が、想定以上に多かった点も誤算だった」と打ち明ける。