全2143文字
PR

 菅政権の値下げ圧力が日に日に強まっている。日経BPが発売した書籍「官邸vs携帯大手 値下げを巡る1000日戦争」では、過去1000日にわたる官邸と携帯大手の攻防を描いた。同書から、値下げを巡る攻防の裏側を紹介する。

 「一律で月1000円値下げすると年間6000億円の減収」─―。

 NTTドコモ幹部の間で共有されている携帯電話事業のコスト感覚だ。前述の通り、IoT向けや格安スマホへの回線提供を除くと、同社の契約数は約5000万前後で頭打ちだ。月1000円の値下げをした場合、1人当たり年間1万2000円の減収。5000万の顧客基盤を掛け算すると年間6000億円という規模に膨れ上がる。営業利益が約9000億円のNTTドコモからすると、とたんに株主への配当が払えなくなってしまう規模だ。数千万顧客から得られる「月額収入」が、NTTドコモにとって、いかに逃れにくい呪縛であるのかが分かる。

NTTドコモ社長の吉沢和弘氏。2018年10月末に最大2〜4割値下げ方針を表明する
[画像のクリックで拡大表示]
NTTドコモ社長の吉沢和弘氏。2018年10月末に最大2〜4割値下げ方針を表明する
(写真: 日経クロステック)

 利用者にとって月1000円程度の値下げでは、料金の負担が減ったという実感はほとんど得られない。携帯料金として月7000円程度を支払っている利用者が多いなか、月1000円では1割強の値下げにとどまる。菅氏が指摘する「4割値下げ」の水準は、NTTドコモの経営視点で見ると極めて高いハードルだった。

 2018年8月に菅官房長官(当時)が「携帯大手の携帯料金は、四割程度引き下げる余地がある」と発言し、官製値下げ議論が巻き起こったタイミングも「最悪」(NTTドコモ幹部)だった。NTTドコモは2018年10月末の中間決算で、中期経営計画を公表する計画だったからだ。

 ドコモは吉沢和弘社長が2016年に社長に就任して以来、初めて中期経営計画の数値目標を示す晴れの舞台にしようと準備をしてきた。そこに降って湧いてきた官製値下げ。国民の関心が高まっている以上、値下げに関する何らかの答えを中期経営計画に盛り込むことは、避けられない情勢だった。内と外からとプレッシャーがのしかかるなか、NTTドコモは改めて、利用者がなぜ携帯料金に不満を持つのか、料金を高いと感じる理由は何かを問い直した。そして「現状の料金プランのさまざまな反省点が見えてきた」(NTTドコモ幹部)という。

 反省点としてまず見えたのは、料金プランや割引が複雑化し、利用者が何にいくら支払っているのか把握しにくくなっていた点だ。2018年当時、同社が提供していた料金プランは「カケホーダイ&パケあえる」だ。3種類の音声基本プランと数種類のデータ通信プランから適したメニューを組み合わせて使うという形態だった。

 データ通信プランは、家族でデータ容量をシェアできるメニューを主力にしていた。家族利用が多い同社顧客のニーズに応え、家族でデータ容量を融通しあえるというメリットを訴求した。だがその半面、個人でどれくらいのデータ容量を使い、料金を支払っているのかを実感しにくいデメリットがあった。カケホーダイ&パケあえるはサービス開始から四年が経過し、利用者のニーズに応えたり競争対抗したりすることで、複雑化したという事情もあった。

同じプランなのに通信料金が異なる

 「月々サポート」と呼ぶ端末購入補助も、料金を分かりにくくしている要因の一つだった。月々サポートとは、購入した端末ごとに最大24カ月間にわたって通信料金を割り引く施策だ。購入端末の種類ごとに割引額に差があり、同じプランなのに通信料金が異なるという複雑な状況を生んでいた。