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 菅政権の値下げ圧力が日に日に強まっている。日経BPが発売した書籍「官邸vs携帯大手 値下げを巡る1000日戦争」では、過去1000日にわたる官邸と携帯大手の攻防を描いた。同書から、値下げを巡る攻防の裏側を紹介する。

 「料金が複雑で分かりにくいという声をたくさんいただいていた。真摯(しんし)に受け止め、選ばれ続けるために、シンプルで分かりやすい料金に見直す。導入に合わせて料金を2〜4割低廉化させたい。詳細の発表と提供開始は2019年度第1四半期を予定している」――。

NTTドコモ社長の吉沢和弘氏。最大で年4000億円還元の値下げを決断する
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NTTドコモ社長の吉沢和弘氏。最大で年4000億円還元の値下げを決断する
(写真:日経クロステック)

 NTTドコモの吉沢和弘社長は2018年10月末、中期経営計画に合わせて値下げする方針を正式に発表した。2〜4割値下げという具体的な水準を示すことで、菅義偉官房長官(当時、現首相)が2018年8月に「携帯大手の携帯料金は、4割程度引き下げる余地がある」と発言した内容に結果的に応えた形となった。吉沢社長は「2019年度下期に新規参入事業者(楽天)がサービスを開始し、市場環境が激変する。先んじて競争を強化する必要がある」と、あくまで自主的に値下げする方針を強調した。

 驚かされたのは値下げによるダメージの大きさだった。値下げに伴って「最大で年4000億円を顧客に還元する」(吉沢社長)。その結果、NTTドコモの業績は2018年度の利益水準を当面下回る状況が続く。2017年度の営業利益である9900億円の水準に回復するのは2023年度、実に5年にわたって値下げによるインパクトが続く計画だった。同社の経営陣にとって、2〜4割値下げが極めて大きな経営判断だったことがうかがえる。

 2〜4割値下げする新料金プランは、月々サポートがない分離プランで提供する。最大年4000億円の顧客還元は、月々サポート廃止による支出減の影響を加味した差し引きの額だ。「実は値下げで最大年約8000億円の減収となる。月々サポート廃止で支出が抑えられ約4000億円が戻ってくるため、ざっくり最大で年約4000億円の還元という計算になる」(NTT幹部)

 新料金プランは既存顧客に自動適用できない。少数ながら従来プランのほうが有利になる顧客がいるからだ。従来プランの契約者は、新料金プランに変更して初めて値下げの恩恵を受けられる。NTTドコモは、約5000万のスマホや携帯電話の契約者を、4〜5年かけて新料金プランへと移行させる。

 吉沢社長は中期経営計画として、「持続的成長に向けて、会員を軸にした事業運営への変革と、5G(第5世代移動通信システム)のビジネス創出にかじを切る」と説明。もはや伸び代が少ない携帯電話事業からの転換を強調した。5Gインフラ構築のために2019年度から2023年度の累計で約1兆円を投資。自社のポイントサービスであるdポイントの会員基盤を約6700万(2018年当時)から、2021年度に7800万へ拡大する目標を示した。新たな成長分野であるスマホ決済やクレジット決済などの金融・決済事業は、2017年度の取扱高である約3兆2000億円を2021年度には約6兆円に拡大する計画も明らかにした。

 だが値下げで大幅減益となる状況を、新たなビジネスがどのように回復していくのか明確な説明はなかった。「利益が回復したとしても、政府の意向でまた利益減になりかねない」(証券アナリスト)など、投資家の反応は冷たかった。発表の翌日、NTTドコモを含む通信関連の株価は当然ながら急落した。