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 菅政権の値下げ圧力が日に日に強まっている。日経BPが発売した書籍「官邸vs携帯大手 値下げを巡る1000日戦争」では、過去1000日にわたる官邸と携帯大手の攻防を描いた。同書から、値下げを巡るこれまでの攻防の裏側を紹介する。

 NTTドコモは2019年6月1日に新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」の提供を開始した。しかし下馬評通り出足は鈍かった。改正法施行前にもかかわらず過度な端末割引を自主的に抑えて、「完全分離」を先取りした売り方にした。そのため駆け込み需要を狙って端末の大幅安売りを継続したKDDIやソフトバンクに太刀打ちできなかった。

NTT持ち株会社社長の澤田純氏(左)は2020年9月末、NTTドコモを完全子会社化する方針を発表した
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NTT持ち株会社社長の澤田純氏(左)は2020年9月末、NTTドコモを完全子会社化する方針を発表した
(出所:オンライン会見をキャプチャー)

4000億円はどこへ消えた

 ここで不思議に思うのが、年間最大4000億円という巨額な還元を実施するにもかかわらずNTTドコモの新料金プランが、KDDIやソフトバンクに対して競争力を出せなかった点である。4000億円は一体どこに還元されているのか。

 NTTドコモの関係者によると「NTTドコモの利用者の多くは、実際に利用するデータ通信量以上の料金プランに入っている。NTTドコモは新料金プランの導入に合わせて、こうした利用者のプランのアンマッチを解消する。それが大きな収益減になる」という。

 NTTドコモのスマホ顧客のうち、1カ月に利用するデータ通信量が1GB未満の利用者は約4割という。1GB未満の利用者は、実際には5GBといった利用実態に合わないプランに加入していたケースが多かった可能性がある。

 24カ月にわたって端末代金を実質割り引く「月々サポート」の期間が終了したまま、プランを継続している利用者も多かったと考えられる。NTTドコモは端末割引の期間が終了している利用者に対して案内を出し、新料金プランへの切り替えを促す考えだ。

 NTTドコモの新料金プランの真の狙いは、他社の顧客を奪うことがメインではなく、既に抱えている約5000万の携帯電話端末の契約者に対し、同社本来の安さを実感し、納得感を持って長く使ってもらうことが目的であることが分かる。

 一時的に収益へのダメージは大きくなるが、一度、大きく落とすことで回復への道筋も立てやすい。NTTドコモが新料金プランとして投入したライトユーザー向けのギガライトは、利用者がその月に使ったデータ通信量で4段階の料金が適用される。当初はデータ通信量が少なくても、スマホの使い方などに慣れると、すぐに3GB、5GBといったデータ通信量になるだろう。

皮肉にも非通信で激しい競争

 NTTドコモの新料金プランではKDDIとソフトバンクが大きく動くことはなく、大手3社の値下げ競争は不発に終わった。大手自らでは3社体制の呪縛を逃れることができないことを、図らずも示してしまった。3社の間で楽天の参入待ちという意識が残り、手の内をすべて見せなかったことも理由の一つだろう。

 頼みの綱は2019年10月に参入予定の楽天だった。持たざる強みを打ち出せる楽天こそが、3社体制の呪縛を壊し、値下げ競争を巻き起こせる可能性があった。だが楽天の「常識外れ」の悪い面が出て、携帯電話事業への本格参入は2020年4月へと延期されてしまった。