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 大手生命保険会社の第一生命保険がAI(人工知能)などを駆使したデジタル変革(DX)をコロナ禍で加速させている。オンライン販売やAIを活用した保険商品提案、コストを抑えたDXの基盤となる基幹システム刷新、独自のAIOCR(AIと光学的文字認識を組み合わせた技術)など生保の新常態(ニューノーマル)に挑む第一生命の施策を解説。第2回は営業職員の保険商品提案を支援するAIに迫る。

 第一生命はAIを活用し、顧客への提案のカギとなる「保障設計書」の作成を支援する「AI 保障設計レコメンドシステム」を富士通と共同で構築した。保障設計書は契約者(被保険者)の情報や保障内容、毎月の保険料などを記載している。富士通はAIの学習モデル構築やクラウド基盤の開発・運用を担う。システム投資額は3億円だ。

顧客ニーズの確認にAI保障設計レコメンドシステムを活用するイメージ
顧客ニーズの確認にAI保障設計レコメンドシステムを活用するイメージ
日経クロステック作成(右の表示画面の出所:第一生命保険)
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AIがレコメンドする保障プランの画面例
AIがレコメンドする保障プランの画面例
出所:第一生命保険
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 営業職員である全国4万人の生涯設計デザイナーを対象に新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下の2020年4月、全国に展開した。「AIで営業職員をアシストして、どの担当者であっても提案する保険の品質を担保できるようにする」と第一生命の生涯設計教育部ラインマネジャーである梅田智広提案支援開発課長はAI 保障設計レコメンドシステム導入の狙いを話す。顧客にAIが導き出したプランの選択肢を見せ、どの保障内容が顧客自身にとって必要なのかを見極めてもらえるような基盤を作った。

 従来、保険の提案は営業職員のスキルに依存するところが多かった。特に顧客がすでに第一生命の保険に加入しており「保障内容を見直したい」ケースについては、設計上の制約を踏まえながら見直しプランを作っていく必要がある。入社1年目や経験の浅い営業職員にとっては作成が難航する場合があった。AIがプラン作成の際に、商品の販売範囲であらかじめ定められている更新期間や満期、保険金額、商品の組み合わせなどを条件として反映する。

学習データは直近3~4カ月

 AI 保障設計レコメンドシステムは過去に生涯設計デザイナーが作成した1700万件の保障設計データを学習させたAIを使う。顧客の属性データや現在加入している契約情報などを入力すると推奨する保障の見直しプランを自動で作成、出力する。同システムが使うAIは複数の教師あり学習や教師なし学習の機械学習モデルを組み合わせた。2020年7月3日には生命保険業界初の取り組みとして、第一生命から単独特許を出願した。

 AIに学習させるデータは年齢や性別、家族構成など顧客の属性データや既契約情報、営業職員が新たに設計した契約情報などだ。直近3~4カ月に作成した1700万件の保障設計書のテキストデータを使う。商品の改定や時代に応じた顧客ニーズの変化に対応するため、新しいデータを用いる。「ガンに注目が集まる場合や入院時の保障に関心が高まる場合など、その時々によってトレンドがあるため更新する」と梅田提案支援開発課長は話す。