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 大手生命保険会社の第一生命保険がAI(人工知能)などを駆使したデジタル変革(DX)をコロナ禍で加速させている。オンライン販売やAIを活用した保険商品提案、コストを抑えたDXの基盤となる基幹システム刷新、独自のAI OCR(AIと光学的文字認識を組み合わせた技術)など生保の新常態(ニューノーマル)に挑む第一生命の施策を解説。第4回は金融庁の「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」に選ばれた第一生命の基幹システム刷新に迫る。

 第一生命保険は2020年9月までにクラウドを活用して基幹システムを刷新した。数十年単位の長期にわたる契約データを管理する従来のメインフレームと、最新のクラウドをうまく組み合わせたアーキテクチャーを採用。日常生活における行動と健康状態の因果関係を分析しやすくしたり、健康や食生活の管理に関する外部データとの連携を取りやすくしたりするなどして、DXを推し進める環境を整えた。

第一生命保険の「ホームクラウド」構想のシステム構成
第一生命保険の「ホームクラウド」構想のシステム構成
出所:第一生命保険の資料を基に日経クロステック作成
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 クラウドは米マイクロソフトの「Microsoft Azure」を使う。クラウド上に顧客情報や契約情報のデータ分析システムなどを構築し、他のクラウドサービスと連携するためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)も用意した。マルチクラウド活用を進めるにあたり、様々なデータを集積し、統一的な運用をするための本拠地としての意味を込めて、「ホームクラウド」と名付けた。今まさに第一生命の業務システムをホームクラウド上に移行しているところだ。

 システム刷新の背景には生命保険事業の領域拡大がある。第一生命によると健康寿命が延び、医療費の抑制が求められる中、生命保険事業は従来のもしもの時のための「Protection(保障)」の役割に加え、「Prevention(予防・早期発見)」の役割が重視され始めているという。終身保険や3大疾病に備える保険だけでなく、「就業不能保険」や「認知症保険」といった保険も登場。顧客ニーズの多様化にも応えていく。

システム投資額は「わずか」30億円

 金融機関の基幹システム刷新にもかかわらず、システム投資額は約30億円。主にインフラ整備とアプリケーション共通機能の開発に費やした。大手生命保険会社の基幹システム刷新としては、30億円は「わずか」といえる金額だ。「新商品用システムなどに予算を使えるよう、インフラの部分ではできるだけコストを抑えるよう工夫した」と第一生命の太田俊規ITビジネスプロセス企画部フェローは話す。

第一生命保険の太田俊規ITビジネスプロセス企画部フェロー
第一生命保険の太田俊規ITビジネスプロセス企画部フェロー
撮影:日経クロステック
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 コストを抑える工夫はIT部門の腕の見せどころともいえる。手間もコストも大幅にかかるシステムの「総取り換え」ではなく、顧客データを管理する従来のメインフレームを生かしながら、そのフロントエンドにクラウドを配置する形をとった。「メインフレームに残すべきものとクラウド上に構築すべきものを、社内で徹底的に議論した」と太田フェローは語る。

 工夫が奏功し、第一生命は2020年6月30日に、金融庁が金融機関の基幹システムに関する取り組みを支援する目的で設置した「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」に選ばれた。同サポートハブに選ばれたのは第一生命が保険業界で初めてだ。同サポートハブは「社会的意義」「先進性」「利用者保護」「遂行可能性」の4つの項目に照らして決定される。

 支援案件ごとに金融庁のシステムモニタリング担当や外部の有識者によるチームが結成される。同サポートハブに選ばれることは、法令解釈などの機能に加えて、ITガバナンスやITに関するリスク管理などシステムモニタリングの観点から、機能開発などで金融庁と議論できるメリットがある。