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 東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授は2020年10月14日、「人工知能の進展と産業・社会の変化」と題して、オンラインで開催された「日経クロステック EXPO 2020」で講演した。ディープラーニング(深層学習)の技術動向をはじめ、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた産業構造の変化や産業へのインパクトを解説した。

「日経クロステック EXPO 2020」で講演する東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授
「日経クロステック EXPO 2020」で講演する東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授
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 新型コロナ禍においては、日本全体でIT活用が不十分だったことが露呈した。とはいえ、これまでの日本のIT投資額は他国に引けを取らない事実を踏まえ、松尾教授は「IT人材が大手ITベンダーに集中していることが課題」としたうえで、DX推進に向けてはまずユーザー企業のIT人材育成が重要だと指摘した。さらに大企業に対しては、技術に明るいスタートアップとの連携を呼びかけた。

 ディープラーニングについては、画像認識の性能向上を受け、すでに産業分野で様々な取り組みが進んでいるとした。ここ数年は自然言語処理でもディープラーニングのインパクトが注目されている。米Google(グーグル)が2018年10月に発表した「BERT」で自然言語処理の精度が急激に向上し、2019年には自然言語処理の総合的なベンチマーク「GLUE」で人間超えを果たした。

 2020年夏には米OpenAI(オープンAI)が発表した文章生成AI「GPT-3」が注目を浴びた。GPT-3は高精度な自然言語処理を実現するが、学習には数兆ワードに及ぶ大量データと計算機パワーが必要だ。「1回の学習に数十億円の予算がかかっているはずで、これができるのは英語圏か中国語圏に限られる。日本では、こうした最先端の技術活用で後れを取る恐れがある」と警鐘を鳴らした。

 ディープラーニングの産業応用は様々な領域で進むが、多くは一部業務の自動化にとどまる。松尾教授によると、「うまくいっているプロジェクトでは、その先の業務プロセス全体のデジタル化や効率化、さらに業界全体のサプライチェーンやバリューチェーンの統合・効率化まで進んでいる」。こうしたDXが進めば、業界全体の変革スピードが速くなると指摘する。特に、これまでデジタル化が進んでいなかった食品関連は企業の再編・統合も含めて今後大きな変革が起こっていくとした。